小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

海竜王 霆雷 発熱1

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「これといっては、何もありません。家庭教師に勉強を教えてもらっている間は、少し席を外しましたが、それ以外は・・・・いえ、少し、お傍を離れました。母上から接見のことで呼び出しを受けました。でも、わずかのことです。」
「ええ、ほんの間、美愛を公宮に呼びました。ですが、背の君、それは数瞬のことでございます。」
「毒を盛るようなのは、来ていないはずなんだが・・・」
 ぶっそうなことを、深雪も言う。うとうとと眠っている間のことは、わからないが、それ以外は、ちゃんと水晶宮のことは把握していた。今日は、誰も現れていないはずだ。
「でも、おまえ、午後にかなり深く眠っていたぞ? 深雪。」
 うとうとと当人は思っているが、その時間は計れない。衛将軍の沢は、それらも確認していた。よく眠っていたから、控えの間に下がっていたのだ。
「どれくらい? 沢さん。」 
「二時間、いや、三時間近かったはずだ。何度か、俺も様子は見に部屋に入ったからな。」
 それを聞いて、ちっっと深雪は舌打ちした。その僅かの時間に侵入されていたら、自分でもわからない。
「せんせい、毒かもしれない。たぶん、致死ではないと思うけど。」
 ぶっそうなのが来訪していたら、そういうこともある。相手にとっては悪戯だが、性質が悪い。誰だ? と、考えたが、該当者は何名も居る。いちいち、確認するわけにはいかない。誰か判明すれば、すぐに呼び出してやれるのだが、霆雷の意識がはっきりしていないから、その記憶も読めない。
「竜丹の可能性は? 」
「それは、さすがに致死を超える。」
「わかった。処置は、それでする。」
 叙玉は、子竜を抱きかかえて、出て行った。とりあえず、吐かせて、下らせて、腹の中を洗浄するつもりだろう。そうなると専門家に任せるしかない。美愛は、その医師についていった。妻のほうは、ものずこい形相で虚空を睨んでいる。
「華梨、落ち着いて。悪戯の制裁をする顔じゃないよ? 」
「ですが、あなた様、霆雷に、害をなされては、私の立場がございません。」
「わかっている。ちびの意識が戻ったら、俺が記憶を読む。それで相手はわかる。まあ、どっかの暇人か、牛か亀あたりだろうさ。」
「どれでも八つ裂きにいたします。」
「だから、それはまずいって。」
 該当しそうなのは、どれも深雪の知り合いで、かなりの高位についている相手ばかりだ。それを滅ぼしたら、神仙界も騒ぎになる。相手は、単なる悪戯のつもりだったのだろうが、霆雷が小さすぎて、効き過ぎたのではないだうか、と、深雪は予想した。
「もう、人騒がせなヤツだな。俺、華梨を止められる自信がないぞ。」
「おまえが止めないと、誰にも止められないんだがな? 深雪。それに、華梨だけじゃないぞ。美愛も、だ。」
 黄龍二匹の暴走を止めるのか? と、深雪は、がっくりと肩を落とした。それをやると、一月は眠り病にかかりそうだ。
「あ、先に俺がやればいいのか。それなら、華梨と美愛が止める側だ。」
「・・・・やめてくれ。それこそ、誰にも止められん。」
 黄龍たちよりも性質の悪い暴走をするだろう銀白竜は、誰にも止めることは不可能だ。水晶宮の近衛たちが束になっても、本気の深雪には敵わない。それどころか、水晶宮本体を破壊してしまう畏れもある。
「そこまではしない。」
「すまん、俺は、それを信じられないから。」
 長年、傍に居る沢あたりになると、暴走の度合いなんて、どうなるのか見当がつかない。普段、大人しいがキレた場合は、生半可ではないからだ。








 処置されて、再び、主人の寝台に寝かされた小竜は、ぐったりとしている。まだ熱は収まらないのか、息が荒い。ふうふうと息を吐いて寝返りをうつ小竜の姿なんてものは、深雪でも胸を痛めるものだ。
「熱冷ましは飲ませたが、これで効くか、どうかだな。・・・深雪、おまえは寝なさい。」
 叙玉は、医師として付き添う。だが、それに水晶宮の主人夫婦まで付き合うことはないと退出を勧める。
「それは無理だよ、せんせい。・・・てか、こんな気持ちに、みんなをさせてたと思うと申し訳ない気がする。」
 深雪は苦笑して、叙玉に首を振る。過去、この状態になったのは一度や二度ではない。その度に、両親や兄たちや華梨が、ずっと、傍についていてくれた。その付き添う側になったのは、深雪は初めてだ。こんな気持ちで、ずっと眺めているしかないのは、悲しい気持ちになる。苦しむ顔が可哀想で、代わってやれるなら、代わってやりたいと思う。
「・・・・親になって、初めて解ることだ。おまえは、保護者が多かったから、この二倍は居たんだぞ? 」
「・・うん・・・」
「わかったなら、次の間でいいから横になっていろ。」
「だから、それは無理だ。とても寝られない。」
 後はクスリが効くのを待つしかない。美愛が華梨に教えられて、霆雷の額に氷水で冷たくした布を載せて熱を冷ましている。不安で、悲しくて、どうしてやることもできないのが、辛いのだろう。ぽろぽろと涙が零れるばかりだ。そんな娘の姿にも心が痛む。
「あームカついてきた。犯人が判明したら半殺しだ。」
「深雪、その気持ちは理解できるが、やめてくれ。今のお前が、そんなことしたら、確実に眠り病だ。」
「おまえが暴走した場合、まず、俺を八つ裂きにしてくれ。そのほうが、俺は心が安らぐ。」
 叙玉と沢からの忠告なんて聞く気はないらしい。それを耳にした華梨も、ニヤリと微笑んだ。
「背の君、では、私くしも加勢いたします。できれば、9割方殺しにいたしましょう。殺さなければよろしいのですから、それぐらいはやりませんと。」
「そうだね、華梨。俺も、それぐらいはやりそうだ。後は頼んでいいかい? 」
「ええ、もちろんです。ごゆっくり休息してくださいませ。」
 黄金竜と銀白竜の双攻撃なんてものに耐えうる生物はいるだろうか、いや、無理だろう。いつもは、どちらかが止めるのに、ふたり同時に攻撃なんて危険すぎる。
「沢、廉様に声をかけてくれ。」
 こっそりと叙玉が、沢の耳元に囁く。実力の程は劣るが、青竜王妃の廉なら、止められるかもしれない。無理だと判断すれば、長を呼び戻すだろうし、その判断はしてくれる。
 沢のほうも、それぐらいしか対応がないな、と、こっそりと部屋は出た。まだ、事情も説明していないから、そこからになるが、まあ、この調子では明日までは動きはないだろう。




 小竜が、えふえふと咳き込むので、横になっている、その小さな背中を擦る。熱は少し下がったのだが、完全ではない。娘は、氷を用意するために次の間に下がっている。
「霆雷、わかるか? 」
 小さな手を握ってやると、ふうと息を吐いて大人しくなった。やはり、これが一番効くんだな、と、おかしそうに深雪は頬を歪める。自分も母親や廉の手を握っていた。誰かが傍にいてくれる証拠だからだ。涙でぐしょぐしょの顔を、濡れたタオルで拭いてやる。
「あなたさま、どうか休息を。」
 背後から、囁くように妻が声をかけてくる。
「あなた様こそ、お休みなさい。」
「いいえ、私は一晩起きていても、大丈夫です。あなた様はいけません。」
「俺も、眠れないよ。・・・・華梨、何度も、こんなことさせてたんだね。ありがとう。」
作品名:海竜王 霆雷 発熱1 作家名:篠義