非色──いろにあらず──
晩夏
ごらん 夜の静寂(しじま)
海の色とも
空の色ともつかぬ闇から
赤い月が昇る
友とふたり
真昼の熱の残る岸壁に立つ
この邂逅を祝おう
波は太古からのささやきをくりかえし
風は夏の終わりを告げる
ざわめきは絶え
砂は静けさを取りもどす
長い不在を埋めるかのように
ふたりは饒舌になる
この邂逅を祝おう
足下からわき上がる熱気は
真昼の太陽のなごり
いつもこの情熱を持ち続けたいと
友が言う
また いつか会おう
やがて月は輝き
別れゆくふたりの道を
白く照らし出す
手を振る
道の果てに 明日が見える
作品名:非色──いろにあらず── 作家名:せき あゆみ