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朝霧 玖美
朝霧 玖美
novelistID. 29631
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「夢」

「ねぇ、紫織の夢ってなんだい?」
ベッドの傍らで煙草を燻らせていた彼が、聞いてきた。
「え、私の夢?」
私は枕を抱えたまま、けだるい余韻を楽しんでいたが、そんな問いに言葉が止まった。
彼の顔をしばらく眺めて考えた。
そしてこう答えた。
「やっと子育てが終わって自分の時間が持てたところだもの。自分のことはすべて後回しにしてきた。子どもと毎日を生きるのが戦いのようで精一杯だった。今こうしている時間でさえ、夢みたいよ。その上、自分の夢だなんて思いつかない……」
それでも、目は彼を素通りしてどこか遠くを見ているようだった。

気が付けば、ひとり目的のないまま、家の中で取り残されてしまっていた。
朝のドタバタした時間、朝食の用意、お弁当作り、なかなか起きてこない長女を起こすために往復する階段。夫の見送り。
そして子ども達が学校へ行ってしまうと、もう一人だけの時間が長々と目の前にある。

最初の頃は、なんて気楽でいいのだろうと思っていた。
自由で好きなことが出来て自分だけの時間が快かった。
しかし、一番下の子が小学校を卒業してしまうと、他の母親達とも会う機会が無くなり、誰ともしゃべらない日が続いた。
どんどん焦ってくる。社会から取り残されてしまったような気がしてきた。
そんな時普段はあまりやらないパソコンが目につき、スイッチに手が触れた。
そして出会い系、そういってもメールの交換がメインのサイトを見つけた。
そういえば、中学校の頃文通をしていたことを思い出した。従姉妹ともしていたなとそんなこともおぼろげながら浮かんできた。
「そうか。私は手紙を書くのが好きだったんだ」と思い出し、登録してみた。
そんな中で知り合ったのが彼であった。
仕事はフリーで、シナリオや短い小説なども書いている人だった。
初めて来たメールに仕事の内容が少しだけ書いてあり、それに興味を引かれて返事を出してみた。さすがに物を書く人だけあってメールのやり取りも楽しかった。
何より言葉が弾む。

そんな中で、小学校の時、先生やクラスメートと詩を書いて詩集を出したことを思い出した。中学の時、読書感想文を書いて、コンクールに出されたことも思い出した。

「私はメールを書くことが好きな訳じゃなくて、文章を書くことが好きだったんだ」

彼の問いかけによって、やっとそのことに私は気づいた。
日常の事くらいしか書けないかも知れない。でもそこに自分だけの思いを書けば私だけの作品になる。そう思い、書き始めた。

明日は、彼との逢瀬の日。
もう一度夢のことを聞かれたら、今度は答えられそうな気がする。
私の夢。今からスタートして追い求める夢。まだまだふわふわしている夢だけれど、見つけただけでも心が熱くなってくる気がする私だった。            



(FIN)
作品名: 作家名:朝霧 玖美