海竜王 霆雷 花見おまけ
花見も終盤になり、ほぼ全員のかくし芸も披露が終った。ただ一人だけ、それを披露していないのがいる。
「親父、なんかやれよ。」
「生憎と、俺は不調法なんだ。」
「ぶちょーほー? 」
「何にも、芸事はできないんだよ。」
「えーーせっかくだから、なんかやろうぜ? こういう時に、派手にはっちゃけないとさ。ストレス発散できないだろ? 」
と、言われてもなーと、父親のほうは苦笑する。七百年と少し生きているが、どうも、そういう素養はないらしい。それに、若くして水晶宮の主人になったから、そういう鍛錬をする暇もなかった。
「深雪、それなら、小竜と剣戟でも見せろ。あれなら、そこそこ見られる。」
簾が、そう言うと、木刀を持ってきた。簾と蓮貴妃が基礎から叩き込んでくれたお陰で、どうにか剣の捌きだけは、恥ずかしくない程度の腕ではある。だが、相手が問題だ。
「え? ちびと? 」
「そうだ。もちろん、そのままやってはおもしろくないから、おまえは桜の一枝を散らさずに打ち合うんだ。」
ほら、と、蓮貴妃が捧げ持っていた桜の一枝を、深雪に渡す。それぐらいのハンデがあれば、どうにか形になるだろう。
「散らさなければいいんだな? 一姉。」
「ああ、それでいい。霆雷、おまえの太刀筋を確認するためもあるから、好きなように深雪に打ち込め。」
「わかった。親父を叩いたら勝ちだな。やろう、親父っっ。」
姉は、おそらく霆雷の反応や素養を確認するつもりだろう。そのために余興も兼ねて、みなに拝ませようという魂胆だ。そういうことなら、付き合うか、と、深雪も桜の枝を手にして立ち上がる。
「ふたりとも、消えるはなしだ。」
超常力は使わないで、戦え、と、命じられて、やれやれと湖の上に浮かび上がる。小竜は、ぶんぶんと木刀を振り回しながらついてくる。
「避けろよ? 親父。」
「心配しなくても、おまえぐらいなら容易いことだ。こい、ちび。」
桜は満開で、花びらは風圧だけで散りそうな気配だ。これを散らさないためには、急激な動きは出来ない。
うぉっしゃあーと正面から木刀を振り下ろす小竜に、深雪のほうは、ひょいと横に避けた。勢いだけで来られれば、避けることは容易い。見切れるギリギリに動くだけなら、それほど風圧はかからない。小竜が木刀を横に振り払えば、背後に退く。上から来れば、横に避ける。何度か、そうやってかわしていたら、小竜が本気になってきた。
「親父、ちょこまか動くなっっ。」
「あははは・・・早く俺に当てないと終らないぞ? ちび。それとも、俺が当ててやろうか? 」
深雪のほうは木刀は一度も振り上げていない。のんびりと空間をたゆたうようにうごいているだけだ。剣術を学んだことがない霆雷には、見切りというものすら解らない。なぜ、すらりと避けられているのか疑問だ。しばらく、考えてから、もう一度、霆雷が正面から大上段に木刀を振り下ろす。すらりと避ける父親の動きを見て、その木刀を横になぎ払う。そこで、ようやく、父親は霆雷の木刀を止めるために、自分の木刀を打ち合わせた。カツンと綺麗な乾いた音がする。
「なかなか、いい機転だな? ちび。」
「ちっっ、防御があんのか。」
「当たり前だ。その勢いで叩かれたら痛いんだよ。」
ほら、と、木刀ごと力で霆雷を押し退けた。まだ、桜の枝は散っていない。つまり、桜の枝は、ほとんど動いていない。
次に、横から突きに見せかけて、その桜の枝に木刀を振り下ろそうとした。しかし、これも木刀で逆に払われた。こっちは息が上がるほどに動いているのに、父親は涼しい顔だ。
「終わりか? 」
「まだまだっっ。」
経験値というものがある。父親は、自分の七十倍近く生きているのだから、それなりに経験値がある。そうなると、攻略するのは、普通には無理だ。どうすれば、隙ができるんだ? と、打ち込みながら考える。二段階の打ち込みで、父親は、初めて防御した。桜の枝に打ち込んだら、返された。ここいらが、ポイントだ。
・・・・スピードとタイミングが合えば、いけるか? 俺・・・・・
こうなってああなって、と、霆雷は頭の中でシュミレーションする。許婚は、真剣に応援している。さすがに、ここで、いいとこも見せないと、男として、どーよ? と、奮起した。かなり高いところまで浮かび上がり、父親の真上から木刀を突き出して急降下する。近付く前に、木刀から手を放した。加速した状態で、木刀は落下する。そして、自分は少し軌道修正して、父親の右手の辺りにさらに、加速して落下する。木刀よりも早く右手に到着するためだ。
父親のほうは、加速した自分を目にして笑っている。ひらりと体を入れ替えて、左手を霆雷に差し出している。桜の枝は右手にある。落下する木刀を力で引き寄せた。頭からまっ逆さまに落下していたのを反転すると、父親の木刀を蹴り上げて打ち込む。
つもりだったのだが、父親は少し浮上して、霆雷の降下とすれ違う。あっと思ったら遅かった。そのまま、湖へダイブすることになった。
ドボーン
と、派手な音と水しぶきで、周囲で見物していた一団は大笑いだ。竜なので溺れることはないから気楽なものだ。
「考え方は柔らかいな。後は、それに見合う運動能力があれば、かなりの腕になりそうだ。」
ふむふむと、その結果に簾は満足そうに頷いている。まだ身体が小さいから、動きが鈍いが、今の技は身体能力が高ければ、打ち込めた方法ではあった。
「おーい、ちび、生きてるかぁ? 」
深雪が水面まで降りて、声をかけると、ざぶりとずぶ濡れの小竜が顔を出した。ギロリと睨んだかと思うと、木刀を振り上げる。水しぶきが上がり、深雪が避けるために袖で顔を覆うようにすると、コツンと足に痛みが走る。
「いっぽーんっっ。うっきゃあーーっっ、やったぁーーっっ、親父に勝ったぞぉぉぉぉぉーーーひゃっほぉーいっっ。」
霆雷は、水面ぎりぎりにあった父親の足を木刀で叩いた。何段階にも組み合わせれば、隙が出来る。そこを突いたらしい。父親のほうも、ありゃ、やられた、と、苦笑する。
「やるじゃないか? ちび。」
「親父の優しさに訴えてみた。油断させるのが難しいな。でも、勝った。」
「おう、認めてやるぞ。よくやった。」
ずぶ濡れの小竜は、するすると水面から出てくる。だが、残念ながら、あれだけ騒いでも父親は桜の枝を優雅に手にしたままだ。
「ハンデがないと、俺、死ぬな。」
「まあなあ、剣術を習えば、すぐに俺なんか追い越せる。」
「いや、親父、強いんじゃないのか? 」
「全然、俺は一番の下手っぴさ。俺を負かしたら、次は竜王に挑戦するといい。いや、おまえの兄たちが先か。焔炎が一番強いから、あれを負かしてからだな。」
「あー先は長いなあ。まず、親父とハンデなしで勝たないとだろ? 」
「そうだけど、それは、なんとかなるだろう。」
真面目に打ち合うとなると、体力的に負けることになる。短期決戦なら、小手先の技で、どうにかなるが、あの勢いで何度も打ち込まれるような剣戟なんてものは、深雪には無理だ。今のところ、小竜も小さいから体力的に、どうにかなっている。
「うわぁー俺、父上より弱いんだけど、どうしょう。」
「親父、なんかやれよ。」
「生憎と、俺は不調法なんだ。」
「ぶちょーほー? 」
「何にも、芸事はできないんだよ。」
「えーーせっかくだから、なんかやろうぜ? こういう時に、派手にはっちゃけないとさ。ストレス発散できないだろ? 」
と、言われてもなーと、父親のほうは苦笑する。七百年と少し生きているが、どうも、そういう素養はないらしい。それに、若くして水晶宮の主人になったから、そういう鍛錬をする暇もなかった。
「深雪、それなら、小竜と剣戟でも見せろ。あれなら、そこそこ見られる。」
簾が、そう言うと、木刀を持ってきた。簾と蓮貴妃が基礎から叩き込んでくれたお陰で、どうにか剣の捌きだけは、恥ずかしくない程度の腕ではある。だが、相手が問題だ。
「え? ちびと? 」
「そうだ。もちろん、そのままやってはおもしろくないから、おまえは桜の一枝を散らさずに打ち合うんだ。」
ほら、と、蓮貴妃が捧げ持っていた桜の一枝を、深雪に渡す。それぐらいのハンデがあれば、どうにか形になるだろう。
「散らさなければいいんだな? 一姉。」
「ああ、それでいい。霆雷、おまえの太刀筋を確認するためもあるから、好きなように深雪に打ち込め。」
「わかった。親父を叩いたら勝ちだな。やろう、親父っっ。」
姉は、おそらく霆雷の反応や素養を確認するつもりだろう。そのために余興も兼ねて、みなに拝ませようという魂胆だ。そういうことなら、付き合うか、と、深雪も桜の枝を手にして立ち上がる。
「ふたりとも、消えるはなしだ。」
超常力は使わないで、戦え、と、命じられて、やれやれと湖の上に浮かび上がる。小竜は、ぶんぶんと木刀を振り回しながらついてくる。
「避けろよ? 親父。」
「心配しなくても、おまえぐらいなら容易いことだ。こい、ちび。」
桜は満開で、花びらは風圧だけで散りそうな気配だ。これを散らさないためには、急激な動きは出来ない。
うぉっしゃあーと正面から木刀を振り下ろす小竜に、深雪のほうは、ひょいと横に避けた。勢いだけで来られれば、避けることは容易い。見切れるギリギリに動くだけなら、それほど風圧はかからない。小竜が木刀を横に振り払えば、背後に退く。上から来れば、横に避ける。何度か、そうやってかわしていたら、小竜が本気になってきた。
「親父、ちょこまか動くなっっ。」
「あははは・・・早く俺に当てないと終らないぞ? ちび。それとも、俺が当ててやろうか? 」
深雪のほうは木刀は一度も振り上げていない。のんびりと空間をたゆたうようにうごいているだけだ。剣術を学んだことがない霆雷には、見切りというものすら解らない。なぜ、すらりと避けられているのか疑問だ。しばらく、考えてから、もう一度、霆雷が正面から大上段に木刀を振り下ろす。すらりと避ける父親の動きを見て、その木刀を横になぎ払う。そこで、ようやく、父親は霆雷の木刀を止めるために、自分の木刀を打ち合わせた。カツンと綺麗な乾いた音がする。
「なかなか、いい機転だな? ちび。」
「ちっっ、防御があんのか。」
「当たり前だ。その勢いで叩かれたら痛いんだよ。」
ほら、と、木刀ごと力で霆雷を押し退けた。まだ、桜の枝は散っていない。つまり、桜の枝は、ほとんど動いていない。
次に、横から突きに見せかけて、その桜の枝に木刀を振り下ろそうとした。しかし、これも木刀で逆に払われた。こっちは息が上がるほどに動いているのに、父親は涼しい顔だ。
「終わりか? 」
「まだまだっっ。」
経験値というものがある。父親は、自分の七十倍近く生きているのだから、それなりに経験値がある。そうなると、攻略するのは、普通には無理だ。どうすれば、隙ができるんだ? と、打ち込みながら考える。二段階の打ち込みで、父親は、初めて防御した。桜の枝に打ち込んだら、返された。ここいらが、ポイントだ。
・・・・スピードとタイミングが合えば、いけるか? 俺・・・・・
こうなってああなって、と、霆雷は頭の中でシュミレーションする。許婚は、真剣に応援している。さすがに、ここで、いいとこも見せないと、男として、どーよ? と、奮起した。かなり高いところまで浮かび上がり、父親の真上から木刀を突き出して急降下する。近付く前に、木刀から手を放した。加速した状態で、木刀は落下する。そして、自分は少し軌道修正して、父親の右手の辺りにさらに、加速して落下する。木刀よりも早く右手に到着するためだ。
父親のほうは、加速した自分を目にして笑っている。ひらりと体を入れ替えて、左手を霆雷に差し出している。桜の枝は右手にある。落下する木刀を力で引き寄せた。頭からまっ逆さまに落下していたのを反転すると、父親の木刀を蹴り上げて打ち込む。
つもりだったのだが、父親は少し浮上して、霆雷の降下とすれ違う。あっと思ったら遅かった。そのまま、湖へダイブすることになった。
ドボーン
と、派手な音と水しぶきで、周囲で見物していた一団は大笑いだ。竜なので溺れることはないから気楽なものだ。
「考え方は柔らかいな。後は、それに見合う運動能力があれば、かなりの腕になりそうだ。」
ふむふむと、その結果に簾は満足そうに頷いている。まだ身体が小さいから、動きが鈍いが、今の技は身体能力が高ければ、打ち込めた方法ではあった。
「おーい、ちび、生きてるかぁ? 」
深雪が水面まで降りて、声をかけると、ざぶりとずぶ濡れの小竜が顔を出した。ギロリと睨んだかと思うと、木刀を振り上げる。水しぶきが上がり、深雪が避けるために袖で顔を覆うようにすると、コツンと足に痛みが走る。
「いっぽーんっっ。うっきゃあーーっっ、やったぁーーっっ、親父に勝ったぞぉぉぉぉぉーーーひゃっほぉーいっっ。」
霆雷は、水面ぎりぎりにあった父親の足を木刀で叩いた。何段階にも組み合わせれば、隙が出来る。そこを突いたらしい。父親のほうも、ありゃ、やられた、と、苦笑する。
「やるじゃないか? ちび。」
「親父の優しさに訴えてみた。油断させるのが難しいな。でも、勝った。」
「おう、認めてやるぞ。よくやった。」
ずぶ濡れの小竜は、するすると水面から出てくる。だが、残念ながら、あれだけ騒いでも父親は桜の枝を優雅に手にしたままだ。
「ハンデがないと、俺、死ぬな。」
「まあなあ、剣術を習えば、すぐに俺なんか追い越せる。」
「いや、親父、強いんじゃないのか? 」
「全然、俺は一番の下手っぴさ。俺を負かしたら、次は竜王に挑戦するといい。いや、おまえの兄たちが先か。焔炎が一番強いから、あれを負かしてからだな。」
「あー先は長いなあ。まず、親父とハンデなしで勝たないとだろ? 」
「そうだけど、それは、なんとかなるだろう。」
真面目に打ち合うとなると、体力的に負けることになる。短期決戦なら、小手先の技で、どうにかなるが、あの勢いで何度も打ち込まれるような剣戟なんてものは、深雪には無理だ。今のところ、小竜も小さいから体力的に、どうにかなっている。
「うわぁー俺、父上より弱いんだけど、どうしょう。」
作品名:海竜王 霆雷 花見おまけ 作家名:篠義