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【幸せ中毒】

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~プロローグ~

「なにやってんだ!! 逃げろ!!」

 気がつくと、彼は私の隣にはいなかった。

「死にたいのか!? バカ野郎!!」

 彼の隣には、ゴリラがいた。

「死にたい……? ふふ、愚問だな。もちろん、死ぬつもりだ」

 彼は不適に笑うと、ゴリラに向かって殴りかかった。

第一話

「やあ、よく来てくれたね。ははは、また死ねなかったよ。真に残念だ」

 骨折三箇所、全身打撲、全治一ヶ月。ゴリラと喧嘩した代償がこれだ。当然、勝敗はゴリラの圧勝だった。

「そんなに死にたいのなら、そこから飛び降りればいいじゃん」

 四階の病室の窓から落ちれば、直ぐに死ねるだろう。

「はぁー……。君は全然わかっていないんだね。飛び降り自殺なんて、つまらんだろう? 俺はもっと面白い死に方をしたいんだよ。それに、病院で飛び降り自殺をしても、直ぐに治療されてしまって死ねないじゃないか!」

 何故か理不尽に怒り出す彼。名前はまだ聞いていない。というか、教えてくれない。何度聞いても「今すばらしい戒名を考えている最中だ。暫し待たれよ」と、梅干を食べたときの様な顔ではぐらかされる。

「私、怒られるのキライなんだよね。ほら、私ゆとり世代だから、褒められて伸びるタイプなんだよ。だから、お前の理不尽な怒りに付き合うつもりはない。帰る」

 私は見舞いに持ってきたヒヨコ饅頭を彼に放り投げた。

「痛い! 右腕折れてるんだぞ!! ちょっとはいたわってくれても……ヒヨコ饅頭を喉に詰まらせて自殺……面白いじゃないかぁ!」

 彼はそう言うと、ヒヨコ饅頭を次々と喉に放り入れた。私は彼のそんな行動を一切無視して、荷物をまとめた。今日は見たいドラマがあるのだ。こんな自殺志願者に付き合っている暇はない。

「それじゃ。死ねるといいね」

 私は荷物を持って病室を出ようとした。そのとき、ヒヨコ饅頭に溺れて窒息しそうになっている彼が、言葉を漏らした。

「ゴホォウ! ゲホォウ! ……ま、まて、最後に俺の戒名を聞いてくれ……」

 彼はそう言うと、ヒヨコの破片を白いシーツの上にばら撒きながら、自らの戒名を発表した。

「モロコシ……で、よろ……しく…………」

 彼はヒヨコの力を甘く見ていたようだ。ヒヨコ饅頭はパサパサで、水分を奪うということを見逃していたのだ!
 彼の咽頭にたまったヒヨコ達は、咽頭のわずかな水分を根こそぎ吸い取り、見事に彼の意識を奪うことに成功した。

「はぁー……」

 私は静かにため息をつき、ナースコールを押してから帰路に着いた。

第二章

 モロコシと出会ったのは、一年前のことだ。

 一年前、カメラマンとして駆け出しだった私は、自分の理想とかけ離れた現実に失望していた。私が悶々と悩みながら街中を歩いていると、全裸のモロコシに話しかけられた。

「やあ、君良いカメラを持っているね。もしよかったら、写真を撮ってもらえないかね?」

 ……可憐な乙女であれば、ここで悲鳴の一つや二つ上げるのが普通なのであろう。でも、私は物怖じしない女なの。

「いいよ。これでも私、プロだから。お金とるからね。一枚一万円。OK?」

 全裸のモロコシは、ニヤリと笑いながらグッドサインをした。

「今はないけど、あとでお金下ろしてくるから。頼むよ」

 金を払われたら、プロとして断るわけにはいかない。私はカメラを手に取り、写真を撮り始めた。

「パシャ! パシャパシャ!」

 私は夢中で写真を撮った。男の裸体に興味はない。それどころか、普通の人と同じように、嫌悪感を持っている。いまにもゲロ吐きそうだった。それでも、私は真剣に被写体の裸男と向き合った。自分の撮りたいものだけとってもダメなんだ。これはずっと考えていたこと。その考えが今、ハッキリとした。希望に満ちていた過去の自分とおさらばする決心が付いた。

「パシャ! パシャ! いいぞ、いいぞ! そのきたねぇモノをもっと見せてみろ!」

 遠くで「キャー!」という悲鳴が聞こえた気がしたが、集中していた私は無視して写真を撮り続けた。


「こら! なにやってんだお前!」

 気がつくと、警察がやってきた。そして、全裸のモロコシを取り押さえた。当然、その瞬間もカメラにおさえた。瞬間瞬間を見逃さずに、カメラにおさめる。それがプロ。

「お前もだ! こっちに来い!!」

 かくして、私と全裸のモロコシは警察に捕まり、猥褻行為の罰を受けた。

 その日以来、何故かモロコシとは縁があり、一緒に行動することが多かった。
 ちなみに、当時何故全裸で町を歩いていたのかモロコシに聞いたことがある。

「恥ずかしさで、死にたかった」

 ……だそうだ。

第三章

 今日もまた、モロコシに呼び出された。

「今日はどうやって自殺するの? 私も暇じゃないから、死ぬなら速くしてちょうだい」

 私はいつもの様に、冷ややかな態度でモロコシに話しかけた。

「今日は、自殺が目的じゃないんだ。自殺するに当たって、遺書を書いた。それを、君に預かっていて欲しいんだ」

 今日のモロコシは、少しいつもと雰囲気が違った。いつもは基本的に真剣なのだが、どこか不真面目さが滲み出ている人だった。でも、今日は口調も重く、顔つきも精悍で、少しドキっとした。

「これだ。もし、うまく自殺できたら、君に読んで欲しい」

 モロコシはそう言うと、私に茶封筒を差し出した。そのときの、モロコシの顔、怖かった。モロコシは、今度こそ本気で死ぬ気だ。そう思えてならなかった。

「今回は、本気なの?」

 いつもモロコシが自殺に挑戦する前に聞く言葉。モロコシは決まって「もちろん! 私はいつだって本気さ」と言っていた。でも、今回だけは違った。無言で、頷くだけだった。

「そっか……。じゃあさ、今度こそ教えてよ。あなたが自殺したい理由」

 今まで、何十回とモロコシの自殺に付き合ってきた。でも、一度たりとも、何故死にたいのかという理由を聞いたことがなかった。死人に口なし。聞くなら、まだ生きている今がいいだろう。

「……そうだな。君には本当に世話になった。君だけには、話しておこう」

 そう言うと、モロコシは静かに語り始めた。

第四章

「私の両親は、強盗に殺されたんだ」

 初めて聞かされた事実。

「ちょうど小学6年生の頃だった。当時、私は強盗犯のことを酷くうらんだ。なんで私の父を殺したんだ! なんで私の母を殺したんだ! 他にも人はいっぱい溢れているのに、何で『私の』なんだ!! ってね」

 モロコシの声は、微かに震えていた。

「私は強盗犯によって、勝手に人生を終わらされた両親を不憫に思った。そして、他人に死刑宣告された強盗犯にも、同じように同情した。死に方くらい、自分で決めさせろや!! そう、思ったのだよ……」
 
 モロコシは遠くを見て、うなだれていた。

「それからというもの、いろんな自殺方法を考えたよ。オーソドックスに首をつろうとか、腹いっぱい食べて胃を破裂させて死のうとか、乳母車にはねられて死のうとか……。そんな風にいろいろと考えるのが、いつの間にか楽しくなってね。今では自殺が私のライフワークになっているのだよ。ははは……」
作品名:【幸せ中毒】 作家名:タコキ