緑の季節【第一部】
「新しい人生を歩み始めて下さい」
覚士の中に整頓のつかない思いがいつまでも残った。
それから2週間後、覚士は里実の墓前に居た。
欅の濃い緑の葉の間から眩しい陽射しがこぼれている。
しばらく曇りの日が続いていたが、すっきりとした五月晴れの穏やかな日であった。
「里実、連休が明けたら、少し長い出張なんだ。半年、一年近くなるかな。
ああこういうのを転勤っていうのかな。違うな。出向かな。
取引先の本社が移転とともに業務見直しとかで。
まっ説明もわからないんだけど、行くことになった。
もちろん、休みもあるから時々は帰ってくるし、マンションもそのまま、会社が半分みてくれるって、助かるよ。行く先は、先方が住まい用意してくれるから心配ない。
ここをしばらく離れて考えてみるよ、君の残した課題について」
それから五日後、覚士は身の回りの荷物とともに「単身引越し便」で新たな出発をした。