絵画レビュー
ムンク「叫び」
http://www.munch.museum.no/work.aspx?id=17&wid=1&lang=no
ムンクは生や死や愛という、むしろ文学の方が扱いやすいテーマを、絵画の手法で、しかも内面的に描いた。だが、「内面的」とはどういうことだろうか。ムンクは誰の内面を描いたのだろう。ムンク自身の内面か、それとも描かれた人間の内面か、それとも鑑賞者の内面か。恐らく、ムンクはそのいずれをも描いたのだと思う。それほど、彼の人間の内面に対する洞察は深く、人間誰しもに通底する共通の土壌を豊かに抱いていた。
この作品は「自然の叫び」の幻聴に由来するという。だが、自然とはムンク自身でもあり、描かれた人間でもあり、観賞者でもあるだろう。「あらゆるものが叫んでいる」という詩的霊感に基づいてこの作品は描かれた。だが、その叫びは単純なものではない。根源であれ表層であれ、とにかく一筋縄ではいかない叫びであり、自然と諸契機が絡まり合い渾然としてくる。ムンクは、彼自身の叫びを作品に表現すると同時に、描かれた人間の叫びも作品に表し、観るものにも叫ばせなければならなかった。そのようなバランスの上でこの作品の具体的な形象が出来上がっている。