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BLお題短編集(同級生CP/年下攻元セフレCP)

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なけなしの勇気(S)



「俊、おはよう」
共に過ごした次の朝、松田は柔らかい笑みを俊介に向ける。
アラームを止めたばかりでまだ完全に覚醒していない、無防備な笑み。とろけるような目で見つめられると、俊介の鼓動は勝手に速度を上げてしまう。
「寝てていいからね」
休日である俊介にそう言うと、松田は少し怠そうに起き上がる。ゆったりしたスウェットから覗く首筋や鎖骨がひどく扇情的で、ベッドを降りようとする彼を後ろから抱き締めて引き留めようと手を伸ばしかけ、そしてすぐに引っ込めてしまうのだ。
そして、松田が身支度を整えたり朝食を用意するのをぼんやり見ているうちに、再び睡魔に連れて行かれる。

次に目を覚ますのは、松田が仕事に出掛ける時。
「いってきます」
優しく頬に触れられ、軽いリップ音と共に額にキスが降って来て、そこで初めて俊介は体を起こす。休みなんだからいいのにと言う松田を、玄関まで見送りに出るためだ。あくびで滲んだ涙をまばたきで散らして、
「…いってらっしゃい」
寝起きの掠れ声でぼそりと言うと今度は唇をちゅっと吸われて、松田の笑顔が扉の外に消えて行く。その時もまた、伸ばそうとした手は体の横に下げられたままだ。家主のいなくなった部屋の鍵を内側からかけると、俊介は溜め息をついた。

いわゆるセフレという関係だった頃、いつも何かしら仕掛けるのは俊介の方からだった。手や体に触れるのも、キスをするのも、体を重ねるのも。それが「正式な交際」へと関係が変化した途端、ほとんど逆になってしまった。それまでは互いに相手への想いを胸にしまっていたが、一度ぶつけ合った後は松田の方が隠すことなく俊介への愛情を向けてくるのに対し、俊介はどうしたら良いのか分からなくなってしまっている。
松田のことは好きだ。ただ、それを日常的に伝える術を、恋愛経験に乏しい俊介は知らなかった。
快楽を得るためと割り切っていた行為の数々も、自分からしたいと言ったらその度に好きだと言っているような気がして、恥ずかしくてたまらなかった。そんな俊介の様子に気付いた松田が、好きだと囁き、肩を抱き寄せ、あちこちに口づけて、やっと俊介が反応を返す。そんな具合だ。
……自分からも、少しぐらいは。
気持ちだけはそう思うのだが、本人を目の前にすると固まってしまうのが常で、その日も結局誘われるようにして松田を抱いた。

「おはよう」
アラームを止めた松田が俊介に微笑みかける。自分で気付いているのだろうか、それとも意図があってか、体を重ねた次の朝は一層とろんとした目で俊介を見上げてふふっと笑うのだ。そしておはようのキスを唇に落とすと、情事の残り香をベッドに置いて身支度を始める。俊介は悶々としながら、二人でひとつの枕を抱き締めた。
「いってきます」
その声で起き上がり、松田の後について玄関まで出る。いつものように松田からのキスを受けると、不意に人恋しさのような感情が込み上げてきた。
ドアノブに手をかけた松田に手を伸ばそうとする。たったそれだけのことでどきどきと早鐘を打つ心臓を押さえ込み、言うことを聞かない腕をぐっと上げた。
「ん?」
「あ、」
手が届いたのは松田の服の裾で、引っ張られた部分と俊介の顔を交互に見た後、松田はぱっと破顔した。
「っ…」
ぎゅうっと抱き締められて、俊介の顔に血液が集まる。それでも何とか松田の背中に腕を回して、髪やうなじの匂いをすんと吸い込んだ。溶けそうに甘い香り。それは俊介にとっての松田自身がそういう存在だからだろう。
「ありがとう」
嬉しそうな松田の声が耳に届いた。なるべく早く帰るね、ともう一度俊介にキスをして機嫌良く仕事に出て行った松田を見送って、俊介は自分の手に視線を落とした。
ただ、服を掴んだだけなのに。それだけで松田はあんなに喜んでくれた。
(こんなことでいいのか……)
じわじわと心が温まるのを感じながら、俊介は再び、松田の匂いが残るベッドに潜り込んだ。