老い楽(らく)の恋
西村 徹と平野 香織は同じ吉祥寺の閑静な住宅街に住んでいる。
番地こそ違うが通りを挟んで南北に位置するところにそれぞれ
自宅があった。
家同士が離れているとは言え近所では逢えない。
しかしテニスサークルの練習日には堂々と会えた。
香織のテニスはお世辞にも上手いとは言えないが教えた甲斐も
あってペアを組んでも少しラリーが続くようになった。
たまに意地悪ぽっくサーブにスピンでもかけると
香織は「西村さん、スピンをかけるのは止めて下さい」と
二人でいる時と違うしゃべりで注文つけて睨む。
「ピンポンしてる訳じゃないんだから・・・それに平野さんは
僕より15歳も若いのですよ。少しはガッツを見せて下さい」と
西村は笑いながら皮肉を込めて言い返した。
香織は甘えた表情で「意地悪なんだから」と舌をだして
あかんべーして変顔を作った。
練習が終わるとみんなで近くのファミレスでランチするのが
恒例になっていた。
いつも参加するメンバーは7~8人だが圧倒的に女性が多かった。
店内で隣に座った年配の女性が
「西村さんと平野さん仲がいいんですね。平野さんお若いから
男性陣にはモテるのよね」と皮肉混じりに話しかけて来た。
西村は内心まずいと思いながら
「いえ、平野さんのコーチを頼まれましたので・・・」といい訳した。
そのご婦人は
「いいのよ。若い女性だから仕方ないわ。でもたまにはわたしにも
コーチしてね」と意味深な表情でニッコリ笑った。
徹は内心で
《ここで噂されたらまずいのでこれからは気をつけて
香織と接しないと・・・女のカンは鋭いからな》