老い楽(らく)の恋
佳代子の普段生活は感情を持たない人形のようなものであった。
ただたんたんと暮しているだけで人生の歓びも希望もない生活である。
夫に対しての愛情はカケラも無い
姑に対しては憎悪さえ持っている。
こんな環境から早く抜け出したい
一人で自由に暮したい
夫婦なんて所詮、赤の他人同士なのだ。
解り合えると思うことが錯覚であり誤解なのだ
もちろん世の中には仲のいいおしどり夫婦もいるがその確率は
非常に低いのではないか・・・
苦しみを味わっている者にとっては地獄である。
精神的な苦痛は肉体にも顕われて来る
そのいい例が円形脱毛症だ
その他にも鬱になったり体調を壊したりいろいろある。
夫婦関係に限らず人生それ自体がいばらの道なのである。
それ故、人は癒しを求めるのである。
自然界に身を置く
宗教や哲学にその答えを求める
その癒しの感覚は人それぞれ違う
いろいろ癒し方はあるだろうが恋をするのも
その一つではないか・・・
佳代子は徹と逢ってる時が幸せを感じることが出来る。
生きてる実感が肉体の歓びから心に響いてくる感じがする。
精神から肉体へと影響を及ぼすなら肉体から精神に影響を
及ぼすこともあるはずだ。
佳代子は徹とあまり逢えないのを愚痴った
「徹、毎週とは言わないけどせめて10日に一度ぐらい
逢って欲しいの。無理なお願いかしら・・・」
「う~ん、俺もそうしたいんだが家内がこの頃少し
おかしいんだよ。どうも何か疑っているそぶりなんだ」
「わたし達のこと・・・?
もしかして他にも女がいるんじゃない」
「なにを言うんだ!付き合ってるのはお前だけだ。
疑われるなんて心外だよ」
徹は心の動揺を隠すためあえて憤慨するふりをした。
「ならいいんだけど・・・ごめんなさい。
わたしにはあなたしか心許せる人がいないの
あなたが好きで好きで堪らないの
愛しているの!だから心配でつい疑ってしまう・・・」
佳代子はそう言いながら涙をポロポロ流した。
徹はそんな佳代子が愛しいと思う。
そう思う反面女のカンの鋭さに舌を巻いた。
「こっちへおいで」と言ってホテルのソファに腰掛けている
佳代子の肩に手を廻してキスをした。
涙が入り混じった塩辛い味がした。