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てっしゅう
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「哀の川」 第三章 クリスマスナイト

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「・・・直樹だから言うけど、姉は丸井物産の時に上司と不倫していたの。奥さんと別れるって約束で付き合っていたけど、子供が出来たと知って、相手から別れ話が出たの。泣く泣く、中絶して別れたけどもうボロボロだったの・・・毎日私と抱き合って泣いて過ごしたわ。忘れるためにカナダにホームステイして、そこのご夫婦がダンスの先生をなさっていて、それで覚えたのよ。日本に帰ってきてあのことは忘れたかのように、毎日レッスン!大会にも優勝して、多くの生徒さんを持つようになったの。姉には言わないでね」
「そうだったのか・・・それで、不倫をしている麻子を応援するって言ってくれたのか。本当なら自分の経験で猛反対なのになあ・・・自分が幸せになれなかったけど、麻子には負けないで添い遂げて欲しい・・・そう思っているんだね」
「きっと、そうかも知れない。でも、それを乗り越えて姉には幸せになって欲しい。私だけが幸せになることは出来ないの・・・」麻子はもう泣いていた。涙がポロポロ頬を落ちる。

「麻子、それは違うよ。僕たちが幸せになることで裕子さんは幸せな気持ちになれるんだよ。人生はどこでどんな縁が待っているか解らない。裕子さんにもきっと素敵な出逢いが訪れるよ。きっと・・・」

麻子はよく泣く。直樹はその度に心が優しすぎると不安に駆られた。自分しか幸せにしてあげられない、と強く思う反面、麻子がボクしか居ないと強く思えるのか疑問に感じられた。泣いている麻子を優しくなだめながら、直樹はキスをした。もう一度キスをした。こんなに愛しいと女性を思うことは初めての事だ。麻子は直樹の思いを解りすぎるほど感じていた。

「麻子、もう泣かないで・・・辛いことはみんなたくさんある。これからは嬉しいときや感動したときに泣こう。一緒に泣こう。でも、悲しいときや辛いときは、お互いが支えあい、助け合い、乗り越えよう。泣いちゃダメだ。逆戻りするから。出来るかい?」
「直樹、あなたは強くなったわ。あなたはもう誰と付き合っても好かれる男性に変ったわ。私はだんだん自分が弱くなっている。あなたに嫌われる女になってしまいそう・・・離れられないし、別れられないけど、あなたをダメにしてしまうかも知れないわよ・・・それでもいいの?」
「傍に居てくれるだけで嬉しいし、ボクには一番必要な女性だよ。きっと幸せにするから、迷わずについて来て欲しい」
「はい、そうよね、迷っちゃいけないわよね。あなたがしっかりとしているのに、私がふらふらしていちゃお姉さんじゃないわよね。可笑しいね。初めて直樹とホテルに入ったときのこと覚えてる?あなた、泣いちゃって、甘えていたの?」
「ええっ?・・・そうだったっけ。借金で苦しんでいたときだよね。キミのおかげで今のボクが居る。感謝しているよ」
「今は逆ね、私が泣いちゃって、甘えてる。奥さんになったら、毎日がこうよ。イヤじゃない?」
「一緒になれたら麻子が泣くことなんかなくなる。毎日笑って純一君と過ごせるよ。それに新しい家族も増えるだろうし・・・」

新しい家族、その響きは麻子の胸に突き刺さった。そうだ、直樹との間に子供が生まれたら、新しい家族が増える。子供の数だけ幸せが増えると母に言い聞かされてきた。麻子はもう自分ひとりじゃないと改めて気持ちを切り替えようとしていた。

「ご飯にしようか?お腹が空いて来たし」
「そうね、最上階の回転レストランに行きましょう」

手を繋いでエレベーターに乗りレストランに入った。