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ラルツァの魔女はあなたのために

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 限界を超えた自責と自己嫌悪が涙のしずくとなって、レピの両眼からこぼれ落ちた。
「うわちょっと待て、泣くな! 悪かった、言い過ぎた!」
 ううん、悪いのは全部わたしだから――そんな言葉ももう声にならない。レピは、せめてダウフィを見つめたまま、力なくかぶりを振る。
「そうじゃなくてだな! おれを心配してくれるんなら、なんで身代わりなんか使おうとしたんだって言いたかったんだ!」
「……身代わ……り……?」
「そうだよ」
 かすれたレピの声に、ダウフィはほんのちょっと安心したように息をついた。しかし、やはりほとんど怒っているかのような顔で視線をそらせた。
「……おれのそばで味方になってくれるやつがいないと安心できないって言うんなら、なんでおまえが自分でそうしないんだ?」
 え、とレピは息を詰まらせる。
「だから手抜きって言ったんだ。そんな大事な役目、ジアルーダみたいなやつに代わりにやらせようとすんな」
 一見不機嫌そうな視線がレピに戻ってくる。
「……それともまさか、実はそこまでは心配してないなんて言うんじゃないだろうな?」
 レピはびっくりして思わず涙を忘れた。そしてかぶりを振った。そんなわけない、という気持ちがこもった分、さっきよりもずっと勢いよく。
「おれが正式に遺産を相続するまでは、まだ時間があるんだ。それまで叔父貴や従兄もあきらめちゃくれないだろう。仮に無事相続できたところで、今度は遺産目当ての連中がいま以上にあれこれやってくるはずだ。おれを嫌ってるやつも多い。大変なんだよ」
 ダウフィは、まばたきひとつ見逃すまいといった顔でレピを見つめている。
「……だから、おまえが助けてくれるんだろ? 森で引きこもってるだけじゃ何もできやしない半端魔女なんだから、ずっと、おれのそばで」
 かっとレピの頬が熱を帯びた。それが何よりの返答になってしまっていることに、レピ自身があわてた。
「――で、でもダウフィ――いい魔女になれって――」
「ああ言った。だからいい魔女になれるよう、おまえのまじないにも協力してやる」
「え、え? まじない? いい魔女になるまじないなんて、そんなのない――」
 と、ダウフィの手が優しくレピを引き寄せる。レピは自然に彼の腕の中に入る。
「……そもそも最初におまえがうちに来たとき、こうしろって頼まれるんじゃないかって期待したんだぞ。これ以上期待をはずしてくれるなよな」
 いまここでかけるべきまじないは何か、もはや誤解のしようがなかった。
 拒否という選択肢も見つからなかった。

   恋するふたりは結ばれん
   真情によりて結ばれん
   柔らに抱きて甘く口づけ
   永遠の絆で結ばれん

 わずかにふるえる声で唱えた呪文が、ゆるやかに夜に融ける。
 ダウフィの腕がさらに近くレピを抱き寄せ、彼の指が優しく頬をすべっていく。
 その心地よさに何もかもをゆだねて、レピはそっと目を閉じた。



《了》