ラクガキ 2
「強いて言うならば薔薇はサービスです。…机の中央をちゃんとご覧になりましたか?」
麻衣に言われるまま、少年は円卓の中央を見た。
そこには、見覚えのあるカップが描かれている。
金の細い縁取りこそ残っていたが、薔薇の花は跡形もなく、歪な×印が描かれていた。
「『平面のものと立体のものを交換』する。これが私の能力です。
先ほどは、まずカップそのものと、あらかじめ机の表面に書いておいた×印を『交換』しました。
それから、貴方が立ち上がるまでに、平面化したカップの薔薇と立体化した×印を『交換』したという訳です。」
「なんつーか、麻衣の性格を表わしたかのようなフクザツな能力だよねぇ。」
籐子の合いの手に麻衣がむくれるのを横目に、なるほどと祐綺は頷いた。
信太の能力も籐子のそれも麻衣のこの能力も、なんとなくではあるが当人の雰囲気が滲みでている。
そう考えると自分のこの能力はいったい自分のどんな面を映しているんだろう、と少年はそっと掌を見つめた。
「じゃ、次は少年の番だね。」
ふいに自分に注目が集まり、祐綺は思わずひるんだ。
「え、いや、その、しっ、紫藤さんは?」
名前を呼ばれ、ひかりは久方ぶりに顔を上げた。
「…私は、裏方ですから。」
訳が分からない。
「ひかりは能力者じゃないってこと。…まあ、似たようなもんではあるけどね。」
籐子はそういってなおも椅子に鎮座する彼女の両肩を抱えた。
「あとで説明することになると思いますが、彼女は非戦闘員なんです。
通信や情報処理など、我々のサポート役をしてくれています。」
生徒会役員は聞いてもいないのに丁寧に説明をしてくれた。
つまりは秘密基地に常駐するスタッフみたいなもんだろうか?
祐綺はまだよくわかっていないことを誤魔化してとりあえず納得することにした。
「そんなわけで、私たちは終わり。少年のターン、どーぞっ!」
「…はあ。」
祐綺はちらりと胸ポケットを見た。
さっき見たとおりなら、この人たちはたぶん「仲間」なんだろう。
でもほんとうに、いいんだろうか?
そんな一瞬の迷いを見抜いたかのように、それはやってきた。
轟音。
一同は円卓の中心に落ちてきた何かとそれが連れてきた砂と土煙をよけるために飛びのいた。
祐綺は彼らの動きに合わせられず、椅子から転げ落ちまともに砂をかぶった。
「な、なに…?」