海竜王 霆雷 花見2
「四兄と俺、黒竜だから、そうなるよな。俺、一兄の礼装好きだ。海の色で綺麗だ。」
「あははは・・・ありがとう、霆雷。じゃあ、今度、私の礼装の色で包を仕立ててもらおう。普段なら、どんな色合いでもいいからね。」
「お揃いもいいな。」
「あら、背の君、私くしともお揃いを着てくださいませ。」
「金色は派手すぎないか? 美愛。」
「いえ、若草色はいかがでしょうか? それなら、普段使いにはよろしいかと思いますの。」
「若草って、どんな色? 」
「草原の色でございます。」
「それならいいな。美愛も可愛い感じになりそうだ。」
「うふふふ・・・誉めていただけて光栄です。」
さすが、霆雷、と、兄弟は内心で誉める。誰も、姉に、そんなことは言えた試しがないし、その切り返しが許されるのは霆雷だけだ。他のものが、可愛いなどと形容したら、確実に、それは叩きのめされること請け合いだ。それも、見た目には小さな子供の霆雷が、姉に、そう言うのだ。黄龍を御しえるのは、その夫のみと言われているが、まさに、その言葉通りの態度だ。
「俺と親父がお揃いってなると、どうなるんだろうな? 二兄。」
「父上とおまえがかい? それは組み合わせが難しいな。白竜と黒竜のどちらもが似合う色合いか・・・・どう思います? 姉上。」
「さあ? 父上は濃い色のものはお召しになりませんが、私の背の君は、濃い色のほうが映えると思います。」
「私と霆雷ということでも問題になりますね? それは。」
風雅は白竜だから、同じように問題になる。だが、いやいや、と、姉は、それには手を横に振る。
「おまえなら簡単です。どちらも極端な基調なのだから、淡い色のものなら似合うはずです。」
「なら、父上も同様でしょう。私は父上ほど銀色が強くはないが、似たような鱗ですから。」
人型であるので、別に基調に合わせる必要はないのだが、背後に、本性が現れるから、それに見合う色合いを選ぶことが大前提だ。確かに、風雅も、銀白竜というほどに輝きはないものの、他の白竜よりは輝いた鱗だ。だが、なぜか、みな、霆雷と父親に共通する色合いというのが、ピンとはこない。
「おまえは地味ですからね。」
「うわぁ、酷い、姉上。」
「姉上、大人しいぐらいにしてやってくれませんか? 風雅に、その言い様は。」
「陸続、おまえも地味ですよ? 」
取り成そうとした陸続も、美愛にけなされて、引き下がる。父親の気性を強く引き継いでいる陸続と風雅は、大人しい印象だから、身内の評価だと、こういうことになる。
「姉上、仮にも兄上は次期長なんですが? 」
「焔炎、事実は捻じ曲げられません。よろしいじゃありませんか、地味であっても。私の背の君が派手でいらっしゃるのだから釣り合いはとれます。」
まあ、そういうことなのだ。禍々しいという形容詞がつきそうな霆雷の波動と、春の陽だまりのような波動の陸続が並べば、それは相殺される。このふたりが、次代の竜族の頂点に立つのだから、それで均衡は保たれる。
「美愛、一兄、地味じゃないと思うぜ? 親父みたくキレたら、怖いぞ?」
「ほほほ・・・そうなったら、私と背の君で止めればよろしいのです。陸続は、父上の特別な能力を一番引き継いでおりますが、私と背の君なら抑え込めるはずです。」
「霆雷、私の地味だという評価は覆してくれないのかい? 」
「三兄は、まだ、よくわかんないよ。一兄は、よく遊んでくれるから、キレたらエグそうだってわかるんだけどさ。」
「「「「え? 」」」」
末弟の言い分に、陸続以外が聞き返した。自分たちでさえ、次期長がキレたところなんて見たこともないのに、来たばかりの小竜は把握しているらしい。
「そうなのかい? 霆雷。」
そして、当人も気付いていなかったらしく、苦笑している。
「ものすごーく深いとこにあるから、一兄は気付いてないだけだ。親父も怖いけど、一兄も凄いぜ? 親父よりはマシだけどさ。」
誰だって負の感情というものは持っている。一兄は、曝け出していないが、奥にそういう部分があって、爆発するようなことがあれば、それは噴出する。その激しさは、美愛の比ではない。ただ、とても強固な壁のような理性があるから護られている。父親の振り幅は、一兄の比ではない。キレたら水晶宮は崩壊すると恐れられているのは、まやかしではない。それぐらいの力が眠っているのだ。何度も喧嘩ごっこしたり身体ごと接触していれば、それぐらいのことは霆雷にも解る。父親も一兄も、導火線が異常に長いだけで、怒りは感じているし、怒鳴りたい気分になることもある。その限界に達した場合は、一気に爆発するので、キレたらヤバイと、霆雷も思うらしい。
「私も父も、どうもタイミングというのがわからなくてね。だから、ここで叱責すればいい、というところに気付けないらしいんだ。」
「俺が言おうか? 」
「そのうちに頼むよ。でも、あまり怒りというものは長続きしなくてね。」
「それ、本気でキレてないからだ。」
「ああ、そういうことなのか。そのうち、そういうこともあるんだろう。その時は、止めてくれ。」
「任せとけっっ、一兄。小出しにしたら楽なんだけど、一兄には無理そうだよな。親父は、適当に怒鳴ってるから発散はさせてるんだ。」
「怒鳴ってる? 父上が? 」
「俺、怒鳴られてるし、殴られてるし、この間、『一回死んで来い』って、本気に近い波動投げつけられた。」
あーと、周囲のものは納得する。このやんちゃ小僧のしつけのため、父親でも怒鳴ることになっているのは、目にしていたからだ。それで、大人しくなることもないのが、ある意味、末弟の凄さだとは思う。
「つまり、陸続兄上と、私も、それで小出しに発散すればいいということではないですかね? 」
「それいいかもな、風雅兄上。こいつなら、多少のことやっても懲りないだろうからさ。」
「だから、本気で戦えって、俺、言ってんじゃん。今度から、本気な? 一兄、三兄。」
たが、陸続と風雅は顔を見合わせて、苦笑する。それができない性格なのは、当人たちも承知している。父親だって、力加減はしているのだ。本気に近い波動と、末弟は思っているが、たぶん、それでも何十分の一かの波動であるはずだ。
「おまえの成長過程に合わせて、本気度も変えるとするさ、霆雷。」
「そういうとこでしょうね。」
陸続と風雅は、優雅に頬を緩めて頷いている。二百年の時を経て、末弟が成人するまでに、兄弟として竜族を束ねるものとして確固たる信頼関係を築く必要がある。それには、本気で波動を投げられるだけの信頼関係も含んでいるのだ。
「次期様たち、花見の席へ案内いたします。どうぞ、ご準備ください。」
扉の向うから声をかけてきたのは、左慈将軍だ。サプライズということで、母親が、こっそり準備をさせていた。それが整ったらしい。
「さて、花見というものを楽しみましょう、背の君。」
陸続の膝に座っていた許婚を抱き上げて、美愛は扉へ向かう。はいはい、と、碧海と風雅も続いて、焔炎と陸続がしんがりを務める。本来は、まるっきり逆の配列が望ましいのだが、性格的には、陸続は、このほうが楽だから、弟も姉も、そこいらは流してくれている。
作品名:海竜王 霆雷 花見2 作家名:篠義