かがり水に映る月
09.だから言いたいんだ、これが最後かもしれないから(1/4)
「寒くない? 大丈夫?」
「うん、暑いくらい。……ありがとう」
月がひそかな決意をしてから数日が経過したのち、冬でも茂る草むらを抜けて、二人は再び、出会いの場所を訪れた。
変わらず人気がなく、今も二人以外誰もいない。月はほとんどの姿を隠し、その上薄い雲が流れているため時折覆われてしまう。
違うといえば、それくらいだった。先を行く月に手を引かれ、礼を言う英人。
疑問がふと浮かび、ぶつけてみた。
「どうしてまた、こんな場所に?」
「こんな場所って、あんたねえ。好きなんでしょ? ここ」
「まあ。一人の時はよく来てたけど」
「一人じゃないと嫌ってこと?」
「違うって」
笑いあう二人。その間柄が、ゆがんだものであっても構わないと、お互い心底で思っていたのかもしれない。
英人は明らかに、月に真の面影を重ねて依存している。それにすがっている。
月自身のことなど、見ているようで雑にしか見ていない。彼女と付き合っていくことで、過去の思い出をリフレインさせる。
つまりは、思い出を引き出す鍵に利用しているだけだ。生きた映写機にしか過ぎない。
そこから何も生まれはしない。傷のなめあいと一緒で、未来へ続く可能性がない。言葉通り、過去にすがりつくだけ。
それでも。
いや、それしかないのだ、英人には。
ただの弱い人間でしかない、彼には。
月も、英人の気持ちを知ってなお利用しているふしがある。本人がほとんどを秘めているため明らかではないが――。
彼に思慕と恋慕があるようには見えない。一緒にいるために、仕方なく世話をしているような、笑っているような、そんな義務感と違和感。
月自身まだ若い。だが、恋という感情(げんしょう)を知らない、というわけでもない。
かといって、友情を感じているわけでもない。まあ、付き合いの短さからするに、まだまだこれからなのかもしれない。
ぎこちなく、歯車はかみ合いも悪く、ぎいぎいと気持ちの悪い音をたてる。
その不協和音は二人の関係がいつ終わるかわからないという予兆に思えて、当たり前のことが顕著にあらわれていて、不気味だった。
「……で?」
「え?」
優しい問いかけで沈黙を割ったが、月の返事はとまどいに満ちていた。
純粋に、何が聞きたいのかわからない、といったふうにそのまま黙り込む。仕方ないと英人は具体的に切り出した。
「ここに行きたがるってことはさ。何か、言いたいことあったんじゃない?」
「……」
「少なくとも、もし僕がここに月を呼ぶとしたらそういうことだけどな。ここには誰も来ないし、月だってここで僕をはじめて見知ったんだろ?」
「……え、ええ」
「月?」
「少し寒くて……声が震えただけ」
「お前なあ。吸血鬼は暑さ寒さには人より強いって言ってたろ」
「ああ、そうね……そんなことも言ったっけね」
そしてまた、再び笑いあう。導いた時に繋いだ手を離さないまま、二人だけがその空間に、まるで切り取られたかのように。
――その空間に、まるで切り取られたかのように。