【コマンド擬人化】安藤と林道 1
「悪い悪い、だってどうしてもって言うからさぁ」
俺が見せ付けるみたいにして溜め息を一つ落としても安藤は少しも悪びれた様子はなくて、表情すら崩さない。いつも通りの笑顔のままだ。
コイツの甘い顔と柔らかい雰囲気に騙されて皆奴にすぐお願いをするのだ。でも、それは奴が簡単に引き受けすぎたりするのだって原因の一つだと思っている。
その証拠にコイツが関わった仕事のかなりの割合が俺のところに新たな仕事として流れてくる。
「甘やかしすぎなんだよ、お前は」
「困ってる奴は放っておけないだろ?」
「……その後に俺のところに回ってきてたら意味ねぇだろうが」
親切心から出てる言葉……だと思えるほど俺とコイツ――――安藤の付き合いは短くない。仕事熱心という風にも見えないのに、頼まれるとすぐに安請け合いする安藤の姿勢は俺には今一つ理解できないものだった。理解はできなくてもどんな行動を取るかは予測できるのでその辺は最近では追求しないことにしているが。
「だからいつも言ってるだろ、仕事する前に本当に必要なのか確認しろって」
「お前がいるから」
その言葉に思わずピタリと一瞬だけではあるが書類をチェックしていた手を止めてしまい、しくじったと思う。
俺が安藤のことをだいたい分かるように、安藤だって俺のことをだいたい分かっている。
「お前が何とかしてくれるから、俺は好きなようにできんだぜ。それにお前だって、俺がいないと困るだろ?」
あんまりな言葉に顔を顰めてギロリと睨むけど、安藤は全然気にしていなかった。だけど人当たりの良い笑顔が、面白いものを見つけたという風に意地悪く口元が持ち上がって、この顔をいつもコイツを頼ってる奴等に見せてやりたいと思う。
でも安藤のこの顔を知ってるのは俺だけなんだと思うと、もうどうでもいいかと思ってしまうことも否定できない。
そして甘やかしているのは俺の方なのかもしれないなと、思う。だけど俺はその浮かび上がってきた仮定を思考の奥底へと再び沈めてなかったことにする。
2010.03.12
作品名:【コマンド擬人化】安藤と林道 1 作家名:高梨チナ