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海竜王 霆雷 花見1

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水晶宮の主人の私宮の庭には、四季の花が植えられている。今は、薄桃色の桜が満開になって、そろそろ散りそうな雰囲気だ。玄武の騒ぎで、眠り病を患った主人殿は、しばらく私宮のほうで静養している。
「あの花はな、華梨が、俺のために用意してくれたものだ。こちらにはないんだ。おまえも見たことがあるだろ? 霆雷。」
 窓から庭を眺めていた父親が、そう言って末息子に笑いかける。時間があれば父親の元へやってくる末息子は、「どれ? 」 と、窓から乗り出した。
「あそこの花が咲いている木だ。」
「見たことあるようなないような・・・」
「そうか? 春の有名な花なんだがなあ。俺が居た頃は、あの花の下で花見をするのが、春の定番だったんだが、そういう行事はなかったか? 」
「あったかもしんないけど、俺は知らない。花見っていうのは、花を眺める行事なのか? 親父。」
「そういうもんだ。花の下で、酒を呑んだり軽い食事をして眺める。春は桜、五月は藤、初夏に柳や常緑樹、秋は紅葉、と、季節ごとに花見があった。」
「ちなみに、あれは? 」
「桜だよ。こちらにはないので、わざわざ、華梨が、俺が住んでたとこから移植してくれた。種で育てられないんだそうで、毎年のように挿し木して増やしてくれた。寿命も短いから、せっせと庭師が世話しているよ。」
「寿命って、どれくらいだ? 」
「長くて百年くらいだから、最初に移植したのは枯れてしまったはずだ。・・・・おまえ、そういう植物の名前も覚えろよ? 霆雷。」
「えーーーー」
 毎日の勉強も、げんなりするのに、さらに宿題を増やすな、と、抗議したら、父親は声を出して笑った。
「そうじゃない。花や木というのは、心を和ませる効果があるだけじゃない。薬用になるもの、水分が確保できるもの、硬いもの、柔らかいもの、食用になるもの、と、いろいろと知ってるとお得なんだ。生きるのに必要なものだからさ。」
「なるほど、ロープレのアイテムみたいなもんだな。」
「まあ、そんなとこだ。」
 父親は微笑んで、末息子の頭を撫でながら、その桜を眺めている。少し寂しそうに、そして懐かしむように遠い目をしている。そこにある桜から思い出のものを偲んでいるのだろう。ぽつりと口にしたのは、父親が滅多に口にしない事柄だった。
「・・・俺は身体が弱かったから、両親が庭に季節の花を用意してくれた。季節を感じられるように、ということだったんたろうな。だから、季節ごとに花見をしていたんだ。」
「親父の家族と? 」
「家族だけじゃない。友達や医者や仕事の仲間も一緒だった。・・・かなり賑やかでな。楽しかったんだ。」
「・・・そうか、親父の周りには人が多かったんだな。」
「ああ、おまえと違って、俺は両親が二組あったしな。だから、普通より多かっただろうさ。」
「贅沢だな? 」
「あははは・・・そうだろ? 俺は。ほとんど家から出られなかったから、みんなが来てくれてたんだ。だから、来れば花見はやってた。」
 同じ元人間だからなのか、口が緩んだのか、珍しく父親は人間だった時のことを話してくれた。霆雷には、そういう楽しい記憶というものはない。父親の半分の年齢で、こちらに来てしまったし、両親も友人も仕事の仲間なんてものもなかったからだ。





 父親が静養しているので、雷小僧の遊び相手に、兄弟たちが召還されていた。雷小僧は父親の命じることには忠実だが、それ以外のものには従わないし、瞬間移動の技で逃亡するから、宮のものだけで御せないからの措置だ。
「まさか、玄武の長に気に入られるなんてな。」
 有り得ない、と、四男は大笑いした。割りと、水晶宮の主人の息子たちと言うことで、玄武も友好的ではあるが、呼び名をつけてくれるほどに親しくはない。だのに、初対面から暴れた雷小僧には、「水晶宮の黒雷竜」 というふたつ名を冠せて遊んでくれたらしい。いや、遊ぶと言っても、荷重をかけて泣かしたりはしていたらしいが、雷小僧のほうも反撃はしていたというのだから、驚愕の事実だ。
「霆雷は物怖じしないし、父上みたいに言いたいことを言うからな。玄武の長殿には楽しい相手なんだろう。」
「本気だしな。」
「本音だからこそだと思うよ、風雅。」
「まあ、いいじゃないか。後見に名乗りを挙げてくださったほどだ。玄武の長殿と親しいとなれば、みな、それなりに接してくれる。」
「陸続兄上は、そうではないけど、玄武の長殿に気に入られているよな? 」
 三人が、そう話し合って長兄へ視線を向ける。長兄は、のんびりと読書の最中だ。
「私は、たぶん、父上に一番近しい波動だからだ。」
 読書の手を休めて、陸続も、こちらに視線を向ける。父親ほどの迫力はないが、柔らかく温かい波動だから、玄武の長は、陸続には、あまり毒づくことはない。陸続のほうも、これといって話すほうではないので、玄武の長が現れても、ふたりして空を眺めているぐらいの穏やかなことになる。
「俺、口もきいてくれないぜ? 陸続兄上。」
「私も直に話したことはありません。」
「私も、それほど話しているわけではないよ? 碧海、風雅。父上がいらっしゃるから、私なんて草木と同じように思っていらっしゃるのではないかな。」
「兄上、それ、本気ですか? あの方が黙っておられるなんて珍しいでしょう。私なんか、嫌味の連発を食らってるのに。」
「おまえは、何かと接触しようとするからだろ? 焔炎。・・・まあ、当代になったら、私が玄武との折衝はするから、あまり無理しなくてもいい。」
 温和な次期青竜王は、あまり折衝事が得意ではない。だから、その補佐する立場になる次期紅竜王が、ついつい、次代として対応しようとする。そのために、玄武の長から嫌味を連発されているので、それについては、陸続が代わりをすると声にした。並び立つ兄弟たちは、それぞれに特性がある。火の属性の焔炎より、土の属性の陸続のほうが、玄武とは相性がいいのだ。
「そうしてもらえると有り難いですね、兄上。」
「わかってる。・・・さて、そろそろ、霆雷を引き取りに行こう。父上にばかり相手をさせていては、私たちが戻った意味がない。」
 昼の食事休憩に、雷小僧は父親の元へ戻ってしまった。食事は、俺と一緒でないと、親父は食わないんだ、と、言うからだ。
「俺が言ってくるよ、陸続兄上。あいつ、午後から勉強するんだろ? 」
「頼むよ、碧海。じゃあ、私たちは公宮のほうへ手伝いに行こう。焔炎、風雅、付き合ってくれ。」
 水晶宮も暇ではない。父親が静養していると、その負担はもれなく、母親と姉にふりかかる。水晶宮の官吏たちは、それに慣れているから、父親が不在でも慌てることはないが、手伝えることは山ほどある。




 碧海が、父親の私宮に向かう前に、ちゃんと蓮貴妃が、雷小僧を引き取りに来ていた。毎日の日課は把握しているから、それをこなさせるためには、時間通り動かさないとならない。
「沢、小竜は、こちらですか? 」
 控えの間に居座っている衛将軍に声をかけて確認すると、部屋に入る。窓際に、小竜を膝に座らせた主人が居た。入室してきた蓮貴妃に、視線で挨拶する。
「お迎えだ、霆雷。」
「ちぇっっ、もう時間か。親父の昼寝にも付き合ってやろうと思ってたのにな。」
作品名:海竜王 霆雷 花見1 作家名:篠義