コスモスの咲く頃
元々出世欲など無いオレは順調にうらぶれた道を歩んできた。
しかし同じ様に出世欲など無いアイツが同期どころか先輩をも差し置いて昇進して行くのを見ると、順調なのだから全く気にならない、という訳には行かなかったのだ。
翌朝、オレは一日に数本しかないバスに乗ってアイツの住む村に出かけた。
村といっても住所を区分けする上での村であって、実際の村落からはかなり離れているらしい。
来て驚くなよ、というような事がハガキに書いてあった。
最寄りのバス停から歩いて数時間掛かる辺ぴな場所なのだ。
天才というのだろうか、一流大学を出たわけでもないアイツは研究開発部門に配属されると次々と新しい成果を挙げていった。
入社五年目の時にアイツが開発した製品は今でもウチの主力商品だ。
山道を歩きながらオレはあの頃の事を想い出していた。
汗が引っ切り無しに溢れてくる。運動不足の脚は棒の様だった。
研究室に居た頃は良かったが、管理職になってからのアイツはいつも機嫌が悪かった。
その頃はあまり話す事も無くなっていたが、珠に会社の中で会うと自分のやりたい事が出来ないとこぼしていたものだ。
オレは外回りが多いので、見た事は無いが、大声をあげて部下を叱責することもあったと聞く。
それでもそこそこの成果は挙げていたようなので、未だにアイツが辞めた本当の理由を知るものは居ない。
オレにさえ「辞めるよ」と一言残しただけなのだ。
どのくらい歩いただろうか。一本道なので迷う事は無かったが、あまり使わない道なのだろう、酷く荒れていたのには参った。
暗い山道を抜けると、かなりの広さの平地に出た。