死線期呼吸
僕の背筋が凍る音がした。パキパキ、ピキピキ。滝のように冷や汗が出てきて、滝のように血の気が引いてゆく。
「彼女は、君を欲している」
記憶の中で、彼女の手首の色を眺めていた。
「今日は、青空が見えないね。君の、青が」
涙が込み上げていた。震えて、吐きそうだった。
この何年も、彼女に固執して、思い出に浸ってばかりいた僕に、それは罪だと世界最大の最終兵器が殺しに来た気分だ。
日向がなぜここにきて、「日向」と名乗ったのか、今ならよくわかった。
皮肉な名前を自分で付けて、心のままに僕のもとに来たことも、ぐちゃぐちゃな脳味噌で考えた。
「生きて」
僕は絞り出すような声で言った。
「生きて」
僕は喉が震えている、あの日君が死んだ日と同じくらいに。
「お願いだから」
日向は笑った。
「最初から、自分は生きてなんかいないの」
日向がテーブル越しに僕を捕まえに来て、コーヒーが入ったマグカップが倒れた音が聞こえた。それから、僕の記憶は途絶えてしまった。