クロス 第七章 ~DON'T STOP~
遂にその時は来た。微かではあるが、アレックスの耳はそれを聞き逃さなかった。確かに肉が破れる音がした。一気に片を付けるべく棺桶の裏から飛び出し、神足を飛ばす。木箱に張り付き、様子を窺う。木箱の陰からマズルが見え、バレルが突き出した。その瞬間、アレックスは左腕を捩じ込んだ。マズルは正確にクロスに触れた。身を強張らしたのが指先に伝わってくる。マズルはそのままに、プラット・バレーを握った手を鷲掴みにすると、ありったけの力で引きずり出す。
「言わんこっちゃない。今度こそ観念しろ」
言うが早いか、銃床を首筋に叩き込んで気絶させていた。崩れ落ちたクロスを持っていたロープで後ろ手に縛り、両足首も縛った。棺桶屋の玄関の前まで引きずっていくと、「終わったぞ」と言いながら扉を叩いた。おずおずと主が顔を覗かせる。アレックスは事の次第を話し、電話を貸してもらうコトにした。まずロゴスにかけ、軍にもかけた。そこに今までどこで何をしていたのか、巡回中の軍人が息を切らせてやって来た。
「どうされましたか」
年輩の軍人はぜいぜいと息をついているので、相棒の若い軍人がすぐに息を整えて聞いてきた。クロスだと答えると慌てて無線連絡をした。
「グラント将軍も呼んでくれ」
そうアレックスは頼んだ。先程の電話ではヘンダーソン中尉が出たからだ。
程なくしてロゴスが到着した。ロゴスはクロスをひっくり返して馬乗りになり、マスクをはぎ取った。細面の顔が露わになった。ロゴスは立ち上がると、悪態をつきながら脇腹を思い切り蹴り飛ばした。
「殺してやりてぇ」
「駄目だ。軍が身柄を欲しがってる」
「なんだと。まさかアレックス、軍ともつるんでたのか」
「すまない」
「五百万バックスはなしだ」
アレックスは予想はしていたが、五百万バックスを手に入れ損ねたコトに落ち込んだ。
ロゴスが去っていった後、軍が到着した。ヘンダーソン中尉とオブライエン少尉が軍用車から降りてきて、クロスを護送車に乗せた。遅れてグラント将軍もシュミット少尉を従えて到着し、クロスの顔を見た。護送車は発進して、軍司令部へと向かった。
「よくやったな。鈍ってはいなかったようではないか」
「ありがとうございます」
「だが少し派手にやったな」
「それは言わないで下さい」
作品名:クロス 第七章 ~DON'T STOP~ 作家名:飛鳥川 葵