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生首は静かに笑う

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「ねぇねぇ、ちゃんと聞いてる~? 那岐」
「あ~ハイハイ。頭かち割れてるけどちょっと可愛かった女子がなんだって?」
「実はこの高校の教師と不倫してたんだって! あ、十年も前らしいけどね。卒業したら結婚しようって約束してたらしいんだけど、その教師の奥さんが妊娠しちゃって。突然別れ話を切り出された彼女は逆上。教師を刺してここの屋上から飛び降り自殺したらしいんだよね~」
「………」
 重い。昼飯の話題にしては重すぎる。それに〝ココ〟。その女子生徒の自殺現場である屋上で、今、飯食ってるんですけど。唐揚げを口に入れようとした俺の箸がぎこちなく止まったのを見て、梓が笑顔のままあっけらかんと言う。
「あ、大丈夫大丈夫~! 彼女はもうきれいさっぱり成仏したよ。僕に祓い残しはなし!」
「……食器汚れみたいに言うなよ」
 むしゃむしゃとおにぎりを頬張る梓を横目に、俺は気づかれないように口の端を上げた。まぁ、悔いや恨みのある幽霊が成仏できたのなら、それに越したことはないか。……いつの間にか、すんなりそう思えるようになってしまったのは、紛れもなく梓のせいだろう。
 子供の頃から幽霊やら妖怪やらが見えていた梓にとって、彼らが〝見える〟ことが〝日常〟だった。やれ「あそこに血を流した女の人がいる」「頭が皿のヒトがキュウリをかじっている」など、目にしたコトをしょっちゅう口にしていたらしいが、まぁ、見えない人の方がほとんどなわけで。同年代の子からは気味悪がられ、大人からは奇怪な視線を受けていたらしい。成長し、高校に入った今でこそ、世間と普通に接することができているが……。この天然はにわ顔に、笑えない暗い過去があったんだよなぁ~と、ふと思い出す。俺の視線に梓が気づいた。
「ん? ぼーひたぼ、ぼごもはぼにばびがふいへう?」
「ちょっ、おいっ! 飛んでる飛んでる! 米粒飛んでるっつーの!!」
 ……思えばあの日。中学の入学式で初めて会ったこいつは、体育館の裏で泣いていた。最初はいじめにでもあったのかと思いきや、話を聞くと、幽霊のお祓いに初めて成功して泣いていたのだという。苦しんでいた幽霊をやっと送り出せたと言って、顔をべしょべしょにして泣いていた。第一印象は勿論、変な奴。しかし、そんな状態の梓をほうっておくこともできず、俺は落ち着くまで側にいたのだが……。それがいけなかったのだろうか。梓がぽつぽつと身の上話をしていたらしいのだが、正直、この時は面倒くさくて適当に相槌をうっていただけだった。つまり、全く聞いていなかったのだ。梓にしてみれば、自分の話を疑うことも、気味悪がることもなく聞いてくれる人に、初めて出会ったのだろう。すっかり懐かれてしまうことに。
 ……言えない。幽霊の話なんて本当は全然聞いていなかっただなんて、死んでも言えない。実は幽霊なんて信じてもいないことなんて、口が裂けても―――。喋ったもんなら俺、絶対、梓に呪われる。
 ―――と、出会ったばかりはビクビクしていたが、毎日毎日幽霊話なんて聞かされると、実は本当にいるんじゃないかと思ってしまうもんで。ある意味、洗脳? こんな自分がたまにコワい。
「ねぇ、那岐ぃ。今日那岐の家に遊びに行ってもいい? 昨日発売したホラーゲーム一緒にやろうよ。ていうか、やってね」
「は?」
 俺のビミョーな心配をよそに、のんきに梓が今日の予定を聞いてくる。というか決定される。…不思議なことに、梓はホラーゲームが大の苦手なのだ。だが興味は津々らしい。自分でやるのは怖いからいつも人にプレイさせ、本人は俺の腕にひっつき、心臓をドキドキさせながら画面に食いついている。邪魔なことこのうえない。…しかし、この手のゲームを持ってくるたび思うのだが、何故!? 幽霊など日常茶飯事の梓が何でホラーゲームを怖がるのか、未だに理解できない。勿論理由を聞いたことはあるが、「真夜中トイレに起きた時にリングの貞子が出て来る方がよっぽど怖くない」というわけのわからない返答。…俺だったら確実にノックアウトだよ、その状況。
「…ま、別にいいけど。―――ん、今日!?」
 ―――駄目だ!! 今日は駄目だ!! 〝本堂でお祓いがある〟って朝、親父が言ってたんだ!!
「ゲームは今日無理だ」
「え、何で?」
「ウチ以外だったらどこでもいい」
「は? だから何で? 家で何かあるの?」
「いや別に」
「だったらいいじゃん。僕、このゲーム楽しみにしてたんだけど」
「…今日は厄日だから」
「………。何か隠してるでしょ、那岐」
 勘ぐる梓の視線が痛い。どーにかしてごまかさないと! ごまかさないと! ごまかせ、俺!!
 結論。
「駅前の甘味屋の金魚鉢パフェ食べに行かねぇか? 奢るぞ」
「金魚ーーー!!」
 作戦成功。梓がモノにつられやすいタチで助かった…。
 町外れにある神社、そこが俺の家。由緒正しい、といえば言葉はいいが、実際はかなりガタがきているボロ寺。そのボロ寺の神主である俺の親父は、梓のように生まれつき霊能力がある。どうやら代々受け継がれているらしい。驚くことにお袋にも、姉貴にも、そして―――かつては俺にもあった、……らしい。
 四、五歳の頃なので全然記憶にないのだが、ある日交通事故にあってしまった俺は、頭を強く打って意識不明の重体だったという。奇跡的に意識をとり戻すことができたが、事故後の俺はまるで後遺症のように、霊能力のスイッチがオフになっていたとのこと。……自分のことなのに、記憶がないだけでまるで人ごとのように感じてしまう。俺も梓のように幽霊が見えていたなんて、正直ゾッとしない。
 退院後、両親は霊関係専門の医者に俺を見せに行った。だがどこをたずねても、俺の霊力が消えた原因はわからなかった。元々〝それ〟関係の医者の数は少ない。藁をもすがる思いで最後の医者に見せに行ったが、「わからん」の一言。「おやおや、はっはっは」「あらあら、まぁ」、そんなノリの俺の両親が、この時ばかりは二人揃って医者にプロレス技を仕掛けたというのだから……まぁ、よほど頭にきたんだろう。
 代々受け継がれてきた能力が、俺でパタリと途絶えてしまうかもしれない―――。初めはそんな心配を両親はしていたらしいが、流石は天然のほほん夫婦。今では「気楽にしてればいいよ~霊能力がなくたって那岐は那岐なんだからさ~。いつかパッと戻ってくるかもしれないし」と俺より気楽な両親。
 ……正直な話、霊能力なんて戻ってきてほしくない。神社の中は結界が張ってあるから霊などは入って来れないらしいが、それでも一足結界の外に出れば、梓がいつも話すようなホラーな世界が待っているのだろう。映画やゲームは作り物だから恐怖なんて感じたことはない。だが、心で在るかどうかの否定をできないものは、とても恐ろしい。確かに〝そこ〟に存在していると、霊能力が戻ったらそう認識してしまうだろうから。幽霊が成仏できたのか、よかったな、なんて思えるのは、所詮俺には関係がないと思っているからこその感想。いつも生々しく語られる梓の〝見ている〟世界なんて、考えただけでも―――気味が悪い。
「だし巻き玉子もーらい!」
「―――あ」
作品名:生首は静かに笑う 作家名:愁水