マリッジセレモニー
「お父さん! 許してくれるのね!?」
娘は歓喜の表情をあらわにし、私に抱きついてきた。
娘の肩に手を回すのは何かが違うような気がして、私は身動き一つもできなかった。
「まだ結婚を許したわけじゃないからな」
「うん、わかってる」
私の精一杯の強がりを娘は見抜いていた。
そういうところは妻にそっくりだ。
『娘は歳をとると――』という義父の言葉を思い出した。確かにそうだと思った。
妻が居間にやってきた。
「お風呂は沸いてますよ。今日は泊まっていくんでしょう?」
「何か食べるものある? 緊張してあんまり食べられなかったのよ」
その緊張の原因は私なのだろうか。
明日からは私の食欲が無くなりそうなのだが、これは言うべきではないだろう。
娘はテーブルに置かれたままの和菓子の箱から一つ取り出して頬張った。
「こら、はしたない」
「だって……」
二人は並んで居間を出て行った。
私は義父へ報告するために仏壇の前に座った。
「お義父さん。娘が、美樹が男を連れてきました。どうやら心は決まっているようです。……複雑ですよね? 失うわけではないのに、とても遠いところに行ってしまうようで」
母と娘であれば、友達のように接することもできるが、父と娘というのは、なかなかそういうわけには行かないものだ。
尤も、妻に言わせれば正反対の意見になるようだが。
娘が、誰かを愛し、誰かを大切に想い、その上で決心したことならば、それは私達が口を出して良いことではない。娘の男を見る眼が至らなかった場合には、それとなく注意してやらねばならないのであろうが、娘が愛している男だ。
私達と娘とでは価値観が違うのは当然の話だから、私がその男に求めることはたった一つだけだ。
―― 娘を愛しているか
私は居間に戻り、和菓子を取り出して頬張った。
不思議としょっぱい味がした。
早いうちに寝酒とティッシュを買い込んでおかねばなるまい。
娘は歓喜の表情をあらわにし、私に抱きついてきた。
娘の肩に手を回すのは何かが違うような気がして、私は身動き一つもできなかった。
「まだ結婚を許したわけじゃないからな」
「うん、わかってる」
私の精一杯の強がりを娘は見抜いていた。
そういうところは妻にそっくりだ。
『娘は歳をとると――』という義父の言葉を思い出した。確かにそうだと思った。
妻が居間にやってきた。
「お風呂は沸いてますよ。今日は泊まっていくんでしょう?」
「何か食べるものある? 緊張してあんまり食べられなかったのよ」
その緊張の原因は私なのだろうか。
明日からは私の食欲が無くなりそうなのだが、これは言うべきではないだろう。
娘はテーブルに置かれたままの和菓子の箱から一つ取り出して頬張った。
「こら、はしたない」
「だって……」
二人は並んで居間を出て行った。
私は義父へ報告するために仏壇の前に座った。
「お義父さん。娘が、美樹が男を連れてきました。どうやら心は決まっているようです。……複雑ですよね? 失うわけではないのに、とても遠いところに行ってしまうようで」
母と娘であれば、友達のように接することもできるが、父と娘というのは、なかなかそういうわけには行かないものだ。
尤も、妻に言わせれば正反対の意見になるようだが。
娘が、誰かを愛し、誰かを大切に想い、その上で決心したことならば、それは私達が口を出して良いことではない。娘の男を見る眼が至らなかった場合には、それとなく注意してやらねばならないのであろうが、娘が愛している男だ。
私達と娘とでは価値観が違うのは当然の話だから、私がその男に求めることはたった一つだけだ。
―― 娘を愛しているか
私は居間に戻り、和菓子を取り出して頬張った。
不思議としょっぱい味がした。
早いうちに寝酒とティッシュを買い込んでおかねばなるまい。