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てっしゅう
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「哀の川」 第二章 変化

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「姉はとても良くモテていたわよね。私はまだ学生だったから姉の行動はとても羨ましかったわ。あの有名な丸井物産に勤めていたしね。社内の人気は一番だった。よくデートしてたわよね、BMW、ベンツ、シーマ、ポルシェ・・・高級車でお迎えに来ていた、入れ替わりに、きっとそのつけが廻ったのよね。心が満たされなかったのよ、今の私と同じ」
「麻子・・・そうねえ、そんな時期があった。ちやほやされてそれなりに幸せを感じていたけれど、どの男も求めるものは同じ・・・それに気付いた時、無性に寂しくなった。自分のこともっと情熱的に心から愛してくれる人が、居ないのかって」

裕子は群がる男たちの欲望を熟知していた。彼らはそれを満たすと去っていった。彼らもまた自分はエリートだと自負して行動していたからだ。そんな彼たちも本当は心の中が寂しかったに違いない。今その事が理解できる年齢になった。もう遅い・・・遅すぎる・・・話しているうちに涙が出てきた。

直樹は、裕子の意外な一面を見てしまった。レッスンで見せるあの強さは消えていた。麻子は姉の裕子の手をとり、慰めていた。こんな美人の姉妹で尚且つお互いに優雅な生活をしているのに、心が満たされていない、という事がひょっとして今の時期たくさん他にも居るのではないのだろうかと、それも憂慮した。

暮らしぶりが裕福になってきて、それも右肩上がりが数年も続くと当たり前のように物事は考えられてゆく。土地は上がるものだ!株は損しない!給料は勤めていれば必ず上がり、年金もたくさんもらえる、と。銀行の利率も高金利を反映して養老定期なんかだと10%近くの配当を付けていた。貯金は10年で倍になる、そう言われていたが株や不動産投資は、そんなものじゃなかったから、預金より投資に多くの国民は関心を抱いていた。

国債、投社債、一時払い養老保険など高利回りに資金は流れていた。本業の利潤追求よりもマネーゲームに奔走していた多くの経営者や重役達は自分の楽しみを人間本来の慈しみや愛情から、金欲や愛欲に支配される世界に求めるようになり、自分を見失っていた。取り残された妻や子供たちは寂しさを紛らわすように、消費に走り、不倫に走った。テレビドラマもそういったテーマで大ヒットを飛ばした。

直樹は、自分は不幸だと考えてきたが、決してそうではないと思い直した。目の前に居る麻子や姉の裕子を見て、普通の女性なのだと、むしろ自分が救いたいとそんな気持ちの変化に動かされていた。


「直樹さん、ごめんなさいね。湿っぽくしてしまって・・・」
「いえ、裕子さん、気にしていませんから。僕の振った話題がいけなかったのですね。謝るのはこちらのほうです」
「あなたは優しい人なのねきっと・・・麻子が好きになるのが・・・解る」
「お姉さん!そんなこと言って。直樹さんに迷惑でしょ!」
「いいのよ、私には全て解るの、あなたの事は。注意しようと思わないわよ。今のあなたには、直樹さんの方が合ってるし、幸せになれるよ」
「私は子供が居るのよ、直樹さんとはお友達。お姉さんもその事は解ってほしいわ」

麻子は直樹の前だったが、そう言うしかなかった。いくら姉だといっても、本心をここで話す事は出来なかったからだ。

「直樹さん、ダンス頑張りましょうね。麻子と最高のペアを組んで、優勝目指しましょう!なんだか、期待出来そうな気分よ。きっと教室の生徒さんたちも応援してくれるわ。お似合いなんですもの・・・」
「はい、なんだかそう言われると、そうなのかなあって思えてきました。厳しく指導してください!」
「そのつもりよ、麻子も今まで以上に努力が必要ね」
「解ってるわ。直樹さんと絶対に優勝して見せるわ!」
「テンション高いね!参っちゃうよ。でも、そんな気がしてきた!」

先ほどの湿った空気はどこかへ消え、三人はダンスの話題で盛り上がっていた。裕子が用事を思い出して三時過ぎに帰っていった。残された二人は勘定を済まし、麻子の車で、前回に約束したとおり、直樹の思いを叶えるために、二人だけの場所へ移動した。

車は日曜日で混雑していない首都高速を以前に行った同じホテルへと向かわせていた。麻子も直樹もいくつかのホテルを経験している訳ではない。どこに素敵なホテルがあるのかは今は解らなかった。直樹は学生の頃に付き合っていた彼女以来だから、乾いている自分の心に麻子の女の部分がぐいぐいと入ってくる。

「直樹は気にならないの?さっき姉が言った、私が出来ちゃった結婚したって言う事・・・何も聞かないから、どう思っているのかって」
「えっ?そうだっけ・・・ゴメンね、気にしてなかった。二人の美女を見ていて他事考えていたから、聞き逃したのかも。麻子はその事気にしているの?」
「何を考えていたのよ!どうせエッチなことでしょ!いや!私はいいけど、姉のことは考えないで!想像もしないで!姉妹だけどあなたには私だけ見ていて欲しいの!解った?」
「怒らないでよ!冗談に決まってるじゃない。すぐ本気になるんだから・・・関西人の悪い癖かなあ・・・冗談好きは」
「そうだったわね、ご両親神戸でしたものね。私は主人がそういう冗談を言わない人だから慣れてないの。周りにも居ないし。直樹のそういうところ気になっていたけど、わたしを不安にさせるようなことは言わないでね。もちろんしちゃダメ!いつでも逢うから、我慢しなくていいのよ」
「我慢なんかしないよ、優しいね麻子は。綺麗だし、僕が変になっちゃうよ・・・離れたくなくなってしまう。大好きだよ!麻子・・・」

運転している麻子の右手と繋ぎ合わせた。麻子はぎゅっと力を入れて握り締める。そしてその手を自分の胸に引き寄せた。柔らかい膨らみを直樹の手は麻子の手から感じ取った。

「ふう〜直樹・・・幸せよ!あなたが傍にいてくれるだけで。ずっと離れないで居てね、私も大好きだから。約束よ・・・」

車は高速を降りた。空いているガレージに入庫して二人は足早に部屋に入って行った。

「あら!この前と同じ部屋だわ、ねえ、直樹、覚えてる?」
「そうだね、そう言われるとそんな感じがしてきた」
「ほら!壁紙のデザインと色、同じよ。変なこと言ってるわね私って、部屋に入っていきなり・・・慣れてるって思われそう」
「そうだよ、女の子がそんな事言うモンじゃないよ!うつむいて恥ずかしそうにしてなきゃ。ん?どうした?黙っちゃって・・・」

麻子は自分がはしゃいでいたことを恥じた。年上で直樹に姉のように接していた部分が嫌に感じてきた。直樹はきっと嫌な思いを感じたであろう。そう思うと、悲しくなった。

「何で泣くの?変なこと言ったかい?ねえ、教えて、麻子!」
「ごめんなさい・・・そうじゃないのよ。あなたに押し付けがましい態度になっていた自分が見えたの。好きになればなるほど自分の思いが強く出るの。こうしてくれなきゃイヤだって・・・私は自分のことしか考えていない、そんな自分がイヤなの、直樹に嫌われたくないって考えてたら、涙が出てきた。こんなに好きになるなんて・・・もう、もうどうなっても・・・構わない!直樹・・・」