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第一種クピドの悪戯障害

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 どうしてだろうか。
「ねえ、私と恋人ごっこしない?」
そんな、くだらない言葉をユウスケに吐き出したのは。
「私がいるから、今は頑張って」
そんな、つまらない言葉をアオイに告げたのは。


「ごめん、待たせた」
 クリスマスイヴ前日、駅前の喫茶店に駆け込んできたユウスケは申し訳無さそうに頭を下げている。肩で息をしているとはこのことか、と私はそんなどうでもいいことを考えながら。
「いいから、座ったら」
「ごめん」
「それじゃあ、お茶でも飲んだら出ましょう」
「ああ、そうだな」
 ありきたりな、当たり前のようなデート。手をつないで映画を観て買い物に行く。そこらのカップルのようにじゃれあいながら。
「ねえ、このアクセサリー可愛くない?」
「うーん、俺はこっちの方が似合うと思うけど」
「確かに、ちょっと子どもっぽいかな」
「アオイなら似合いそうだけど」
 多分深い意味なんてないんだろうけど、そんな彼が不愉快だった。今は私といるのにアオイのことを語ることに対してなのか、それとも、私よりアオイを知ってるつもりなのか。 どちらだろう、不愉快の原因は。
 分からないけれど、一つだけはっきりしているのは、私は二人が幸せであることを願っている、ということ。
 ぼうっと、まとまらない考えでアクセサリーを眺めていると、いつの間にかレジに行っていたらしいユウスケが手に包みを持ってやってきた。きっと、それはアオイへのプレゼントなんだろう。だとすると、彼は今更準備したことになるのか。
「これ、プレゼントってことで」
「え? あ、ありがとう」
 期待は裏切られた。幸いなのかどうかはわからないけれど。

「じゃあ、この辺でお開きね」
 クリスマス一色に彩られた街並みを過ぎ、夜の帳に包まれた公園のベンチに腰掛ける私たち。彼の温もりが肩と手のひらから伝わってくる。
「そうだな」
 明日も早いしと彼は小さく零した。クリスマスイヴは、アオイと過ごすのだ。アオイも楽しみにしていたのを知っている。
「じゃあ、送る。てか、家は近所だし」
「遠慮するわ」
 万が一にも、こんな私たちをアオイには見せたくない。だから……そう言うとユウスケはそっか、と苦笑いだ。
「今日は、ありがとな」
「こちらこそ。そうそう、これ」
 差し出した小箱を受け取るユウスケ。
「おう、ありがとう」
「私も貰ったんだから良いの。大切に使いなさいよ」
「開けて良いか? ……お、指輪か」
 目の前でしげしげと見つめられると、なんとなく気恥ずかしい。
「恋がうまくいきますように、そういうおまじないがかかってるんだって」
「……嫌味か?」
 さあ、そんなことは自分で考えればいい。私は何も言わず、彼の頬に軽いキスをした。これぐらいは許してほしい。

「ただいま」
 部屋に戻る前にアオイの部屋を覗いてみた。
「塾は?」
「……サボっちゃった」
 えへへと笑う彼女の周りにはまるで漫画のように、服が散らばっていた。
「明日の準備?」
「うんって、ちょ、お姉ちゃん!」
 無邪気に笑う妹が無性に可愛くて、けれど憎らしくて、ついつい抱きしめていた。いつもとは違う、けれど同じ温かさを感じた。
「可愛いアオイにプレゼント」
 一日早いけど。身体を離し手渡したのは先ほどと同じ小箱だ。
「恋のおまじないつきだって」
「ありがとう、大切にするね」
 久しぶりに見た笑顔で、それが私に向かっているものだと思うと嬉しくて、だからもう一度、さっきよりも強く抱きしめる。
「もう、可愛いなアオイは。ユウスケにはもったいない」
「そんなこと、ないよ」
 恥ずかしそうに、けれどはっきりと告げる声。
「アオイは、ユウスケのことが好きなのね」
「……うん」
 恥ずかしそうなのは御愛嬌、そう思えたのはいつまでだっただろう。順調な二人を見るのは嬉しくて、どこかもどかしくて。
ずるい、とその言葉を閉じ込めたくて、アオイの頬に唇を触れさせる。

 ――この恋がうまくいきますように
作品名:第一種クピドの悪戯障害 作家名:硝子匣