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第一種クピドの悪戯障害

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 付き合い始めの二人は、恥ずかしがりながらも、仲睦まじく過ごしていた。ユウスケは慣れない大学生活に四苦八苦していたけど、それでもアオイとのデートやメール、電話は欠かさずにしていた。アオイも受験生と云う立場ながら、そのストレスをユウスケヘ甘えることで発散していた。
 私はそんな二人を、ただ眺めていただけだった。
笑顔の二人を見るのは嬉しいし、そのまま幸せでいてほしい。だけど二人だけで楽しそうなのは羨ましいし、私ももっと近くにいたい。そう思ってしまうほどに、眺めていた。


「なあ、アオイってやっぱ大変そう?」
しかし最近は、二人の中に擦れ違いが起きているようだった。
「そうみたい。放課後も補習だし、帰ってからも勉強してる」
 秋になり、アオイは受験に備えて勉強量が一気に増えた。私たちも経験しているから、それがどれだけ大変かは理解しているはずで。
「……だよな」
 そうなるとメールですらその数を減らし、ユウスケは分かりやすいくらいにへこんでいる。
 さらにそんな彼に追い討ちをかけるのは、アオイの第一志望が県外の大学であるということだろう。
「寂しいの?」
「……ノーコメント」
 直接不安を口にしないのに、まるで察してくれとでも言うかのような態度を取るのは昔からだ。
「はっきり言わなきゃわかんないよ、何事も」
 ちょっとだけ、諭すように曖昧な言葉を放るのもいつものことで、そしてこんな風に相談や愚痴に乗るのは、私たちにとっては当たり前のことだった。
ただ、二人のことで相談を受けるようになるなんて想像できなかったし、なんとなく違和感を覚える。

 受験勉強に忙殺されるアオイも、そのことを気にしているのだろう。
「ユウスケくんは最近どうしてるの?」
「それなりに元気、かな」
 メールなり電話なりで連絡をとればいいのに、アオイはそうする余裕すらないようで、私の顔を見るたびにユウスケのことを口にする。
「そうなんだ……最近全然会ってないから」
 腕の中でただでさえ小柄な身体を小さくしているアオイ。そうとうにストレスを感じてるんだろう。普段なら、それこそユウスケに甘えるのだろうけど、それ以上に受験のことが頭を占めているのかもしれないし、それが負い目に感じているのかもしれない。
「大丈夫よ、ユウスケはアオイのことが好きだから」
 腕を解き不安そうな顔を両手で挟み、おでこ同士をくっつけ見詰め合う。
 昔から、こうしてアオイを慰めていたことを、どこか遠くのことのように懐かしんでいる自分がいた。
「……もっと、お姉ちゃんを頼りなさい? なんたって、先輩なんだから」
「……うん。ありがとう」
 呆けそうになるのを堪えて、なんとか姉らしさを見せ付けようと試みる。私はアオイの姉でいなくちゃいけないのだから。
「……ほら、勉強しなきゃでしょ?」
 出来ることは何でもしてあげたい。頼られたらそれに応えたい。そうすれば、私はアオイの姉でいれるから。

 二人の力になりたいし、応援したい。ただ、それは私の居場所を作ろうとして、必死になっているだけなのかもしれない。

「お姉ちゃん、教えてほしいところがあるんだけど」
 リビングでテレビを観ていると、アオイがそう言って私を部屋に呼んだ。
「教科は?」
「英語。ここの解説に詳しいところがなくて」
 問題集とノートを広げた机を覗き込むと目に入ったのは、いつだったか三人で撮った写真。この頃も私たちはずっと一緒にいるんだと思っていたし、事実今でも一緒だ。ほんの少し形は変わってしまったけど。
 確かこの頃既にアオイはユウスケヘの気持ちを自覚していたみたいだし、ユウスケも多分そうだったはずだ。当の私は、どうだったのか覚えていない。
 今も、私の気持ちというやつは、固まっているようでそうでないのかもしれない。
「イヴにね、ユウスケ君とデートするんだ」
「そうなの? まあ、クリスマスくらいは楽しんできなさい」
 そのせいか自分の立っている場所は、どうしようもなく不安定で脆いのだ。
「うん、お姉ちゃんはどうするの?」
「私? バイトと講義かな」

作品名:第一種クピドの悪戯障害 作家名:硝子匣