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篠原 めい2

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「めいは、ビールでいいのか? 」

「チューハイ関係のフルーツ味。」

 了解、と、りんも手を振って踵を返す。飲むにしても、アテが欲しいのは、りんも同意だ。パタンと扉が閉じてから、居間へ案内される。ソファに座るでもなく、めいも真面目な声を出した。りんは、こと、篠原の怪我や病気の説明に弱い。もう、なんていうか自分が死にそうな顔になっていくから、こういう説明の場からは遠ざけるのが通例だ。

「どうなってるの? 大丈夫なんでしょうね? 雪乃。」

「一応、遺族方とは和解したし、議員は雲隠れしたけど、そちらは問題ないと思うわ。」

「そんなもの、どうでもいいわよ。篠原は? 」

「・・・・・・・一応、落ち着いてるかな。安定剤も使ってるから、完全に大丈夫ではないんだけどね。首を絞めるというか、布団に押し付けられて窒息させられそうになったの。それで、精神的にショックは酷いみたい。」

「はあ? りんは骨折と擦過傷って言ったわよっっ。それ、殺人未遂じゃないっっ。相手、雲隠れって・・・警察は?」

「捜査はしているでしょうね。同時に遺族の方にも怪我を負わせているから犯罪ととしては立証できているから。」

「悠長なことをおっしゃるじゃない? 」

「生きてはいないと思うので、そちらはどうでもいいの。」

「あら、そうなの? なら、いいわ。 黒幕は判明しているってことよね? 」

「篠原君の親戚筋よ。記憶がないから拉致して使おうって魂胆なんでしょう。」

「ああ、あれか。・・・・・未遂でよかったわ。でも、ムカつく。」

「鬱憤は五代君で晴らしてちょうだい。」

 めいは岡田の元からの関係者だから、多少、篠原が科局に入った経緯も知っている。あまり外へ出されないシンクタンクから逃亡してきたことは聞き知っていた。

「あとで、高之を食べて憂さを晴らす。・・・・・それで? 」

「今のところは、板橋先生のお母様が付きっ切りで世話してくださってるから、私は空いた時間に付き添いをしているぐらい。まだ寝たり起きたりしてるぐらいなの。」

「怪我はヒビと擦過傷? 」

「いいえ、議員の爪が食い込んだから、首の後ろに何箇所が穴が開いてるのと、胸から入れてた点滴の管を強引に引き抜いたので、そこも裂傷になってるわ。他、小傷多数ってとこかしら。」

 まあ、そりゃそうだろう。窒息させられそうになったということは、かなれ激しく抵抗もしている。いろいろと怪我はしているだろうと、めいも納得する。どちらも医療知識があるから、冷静に病状についての説明を続けた。

「わかった。オーケー、了解。・・・・それ、ポチ、瀕死よね? 」

「誰のことかしら? 私の篠原君は重傷だけど。」

 本気で怒っていないが、雪乃の目は笑っていない。たぶん、めい以外の人間が言ったら、即座に袈裟懸けばっさりな言葉が返ってくるだろう。だが、めいは篠原の姉を自称しているので、こういう場合はお咎めなしだ。くすっと笑って、本来の用件を切り出す。

「お見舞いはできる? 」

「ええ、橘さんたちは説教に行ってる。」

「私たちも行こうと思うの。それで、やんちゃ小僧に、その手筈を整えてもらうことになったんだけど、どうも、あなたも巻き込まれるみたい。」

「なるほど、りんさんなら、どうにかしてくれるでしょうね。じゃあ、そのやんちゃ小僧のアイデアを聞かせてもらいましょうか。とりあえず、飲む? 」

「そうね。」

 ふたりして冷蔵庫に向かい、ビールを持ってきた。一本なんてまどろっこしいことはしない。六本ほど運んできて、プルトップを開ける。

「おかえりなさい、お疲れ様。」

「そちらこそ、お疲れ様。なかなか、ゆっくりさせてもらえないわね。」

「そうね。」

 カコンと缶をぶつけて、ぐびぐびと煽った。地球は平和になったのに、思うように、自分たちは平和を味わう暇がない。これぐらいの楽しみは、勘弁してもらおう、と、めいはぷはーっと息を吐いた。 

作品名:篠原 めい2 作家名:篠義