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篠原 めい2

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僕らの約束は結実しなかった。地球は助かったものの、岡田さんはVFに戻ってこなかったからだ。僕が行くはずだった任務は戻れる確率の低いもので、僕は戻るつもりがなかった。それを知った岡田さんは、僕を殴り飛ばし右腕と手の骨を折って、代わりに任務についた。二度目を使わせないために、そして僕を死なせないためだったが、その代わり、岡田さんは戻れなかった。

 地球へ帰還して、その事実を知った僕は壊れてしまい、思い出すのに一年もかかった。ようやく、VFに関することを思い出し、辺境警備に出航していたVFを出迎えたのは、さらに半年後だった。

 そこで、搭乗していためいと顔を合わせて、唐突に約束が破棄されてしまったことを悟ってしまった。岡田さんとふたりで、めいの結婚式に出席しようと約束したことは叶わない。岡田さん当人がいなくなってしまった。

「しばらくは延期だ。ほとぼりが冷めて、仲間内が集まれるようになったらやるよ。」

 僕が忘れていた間に終わったのかも、と、五代に尋ねたら、そんな返事だった。復帰して判明したのは、VFへのきつい処分だった。表立ってはお咎めなしということになっていたが、実際には、VFスタッフの半分が地上勤務に変わり、勝手なことができないように、スタッフ同士の集会も禁じられていた。特に、酷かったのは五代で、艦長代理としてマスメディアにも顔を出してしまったから、監視がついていて、自分で勝手に外出することもままならない状態だったのだ。

「しょうがない。規律違反をしたのは事実だ。」

 当人は、のほほんと、そう言っていた。理不尽ではあったが、軍人として軍規を違反したから、それなりの罰は受けるべきだと、五代は周囲に説明していた。だから、僕らも、おいそれと会えなくなっていたから、VFが帰還する時の出迎えだけは確実に出かけていた。その時だけは名目があるから、堂々と会えたからだ。その場で、騒ぎに乗じて情報交換もしていた。地上での情報と、宇宙での各基地での情報を照らし合わせていたのだ。

「毎回、これで顔を合わせられるから、よしとするか。」

「飲み食いも何もない宴会だと思えばいいんだろ? 」

「そのうち、ほとぼりも冷めらぁーな。」

 口々にスタッフは、そう言って情報交換が終わったら解散する。ちゃんと、この出迎えだけは出て来い、と、スタッフに命じられて、僕も出かけていた。



 スケジュールを映すパネルを眺めて、りんは溜息をついた。予定通りの帰還だから、イレギュラーな用件が入ったという理由は使えないし、事が事だけに五代に説明もしておく必要があった。

「あーもー、面倒だな。」

「しょうがないだろう。説明しとかないと、あちらさんから何か言われたら、五代は、そっちを信じちゃうだろうからな。」

 艦載機科Ⅱ室で、りんは頭を抱えている。情報交換するのは、いつものことだが、その内容が重いからだ。どう説明しても、五代の末弟は入院しているのだし、怪我もしているから、内容がブルーすぎて説明したくないのが本音だ。

「とりあえず、事実だけ告げておくんだな、りん。」

「あんたが説明すればいいと思うんですが? 橘さん。」

「俺は細かいことまでは知らん。それに、背後の関係とか、あの議員のこととかいろいろありすぎる。」

「じゃあ、怪我の具合は、大旦那とか? 」

「・・・・・んなしちめんどうな配分しないで、てめぇーでやれ。」

「いいじゃん、おまえ、若旦那の親友なんだし? 」

「ジョン、その括りで言うなら、おまえも該当してるだろ。」

「でも、会議の内容は把握したけど、背後は知らないぜ。おまえが全部を把握してるんだから、おまえの担当だ、りん。」

 確かに、全部を把握しているのは自分なのだが、五代とその婚約者に攻め立てられるのが目に見えていて厄介だ。どういうことだ? なぜ、怪我だ? と、滔々とまくし立てられる。

「とはいっても、若旦那が欠席してれば、吊るし上げ食らうのは、おまえだろ? 」

「あんたは凶状持ちだから、誰も吊るさないんです。」

 欠席の理由を知っているのは三人だが、そのうちの一人は暴力的な男なので、そこへ文句はいかない。そうなると、残りのふたりに来るのだが、片方は陽気にウソを吐く男なので事実かどうかわからない。つまり、必然的にりんのところへ押し寄せてくることになる。

「とりあえず、他には風邪で寝込んだでいいだろう。説明しなけりゃならんのは五代と運転手だ。別室でやれ。」

「了解。」

 VFの最高責任者は、篠原の長期療養の理由を知っている。だから、そちらには真実を説明しておかなければならない。他のメインスタッフは重症故のことだと説明してあるから、その説明自体が不用になる。



 輸送任務を無事に終えたVFはスケジュール通りに帰還した。そこへ元のスタッフが出迎えるのは、いつものことだ。りんは、先に艦内に入り、五代と運転手を掴まえた。篠原について話したいことがある、と、言えば、どちらも黙って頷く。艦長室なら誰も来ないだろうと、そちらへ移動した。だが、背後からりんは羽交い絞めを食らわされた。

「うちのポチまたの名を篠原は?  それに関する内緒話なら参加するわよ。」

「それ、順番が間違ってるだろ? めい。・・・・・りん、すまないが、めいも心配してたんだ。教えてやってくれないか? 」

「艦長のご命令とあらば。」

 まあ、どちらも気にしていただろう。岡田が兄代わりをしていた面子で、篠原は、その末弟分だ。五代もめいも、その末弟のことは気にしていた。



 艦長室に移動して、とりあえず大雑把な状況を説明したら、三人の顔色が変わった。まあ、そりゃそうだろう。偽情報に踊らされた新造艦の搭乗員の遺族が、篠原を名指しで糾弾し、それで具合の悪くなったところを拉致しようとされた。なんていう話は、にわかに信じられるものではない。

「糾弾大会ってなんだ? 俺ら、表向きにはお咎めなしのはずだろ? 一般のオンブズマンが、そんなネタを知ってるのが、そもそも不審だぞ。」

「だから、そこじゃない、運転手。篠原が新造艦プロジェクトの代表として糾弾されたんだ。それは公式にも明らかになっている。・・・・・・・一年半で完成させた新造艦は手抜きだらけで、戦闘に耐えられるものではなかったってことになってた。それで、その事実が判明したから篠原は雲隠れしたってことで情報を握らされていたんだ。」

 そして、もう一人の代表だったりんのことは情報にされなかったばかりか、研修という名目で極東から離れていた。ジョンと橘は、その時間、別々の会議に出席していたし、いつもなら篠原にへばりついている細野も、たまたま研修で留守だった。つまり、その空白になる時間は、あらかじめ作られていたということになる。

「おまえの情報はリークされてないってとこが悪質だな。」

「いや、たぶん、わざとだ。その後、わざわざ、篠原が入院している病院まで押しかけてきた。さらに拉致しようとされたから、本来の目的は、そっちだったんだと思う。俺がいなくなると、アカデミーが動くからさ。」
作品名:篠原 めい2 作家名:篠義