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異 村

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テレビではゴールデン・ウィーク中は天候もいいと言っている。さて、どうしようかと私はあれこれ考えを巡らした。郷里へ帰るというのもいいかなと思った。もう何年も帰っていない。結婚生活約十年で離婚し、現在は独身だった。そう思ったらすぐに実行していた。ショルダーバッグに着がえを入れ、もし寒かったらと薄手のジャンパーも入れて早朝に家を出た。新幹線に乗り、さらに乗り継いで3時間ちょっとでもう生家の近くの駅に着いていた。
 時計をみると十時ぐらいだった。目の前に若々しい緑に覆われた大盛山が見える。駅からは生家とは反対側にあるので、二度ぐらいしか登ったことが無かった。緑色に誘われて急に登ってみたいという思いにかられた。私はバス停で時間を確かめ、駅の売店にむかった。駅弁を置いてあるような駅ではないので心配だったが、サンドイッチがあったのでお昼に食べるために買った。そしてスポーツドリンクも買う。

 丁度大盛山の麓を通るバスが停まっていた。数人乗り込んでいるのが見えた。車内に入ると、乗客は老人か学生たちだった。今はもうそれぞれがマイカーで移動しているせいだろう。このバスが運行できているのは、路線に2つの高校があるせいかも知れない。すでに座って話しこんでいた人達が私のことをちらっと見た。どこか地元の人間ではない雰囲気をしているのだろう。私は一番後ろの席まで歩いて行き座った。他の乗客は、またそれぞれの話を始めている。
 バスが発車して十分ぐらいで高校前に着き、数人降りた。それから五分ほどで大盛山登山口に着いた。山桜の頃と紅葉の頃はもっと訪れる人も多かった筈だが、降りたのは私一人だった。
 革靴ではなく、ウォーキングシューズを履いてきて良かったと私は思った。小さな川にかかる橋を渡って川沿いを進むと次第に登り坂になってきた。昔はもっと細い道だったと記憶をたどる。しばらく歩いて行くと車が停まっていた。あ、そうか道幅を広げて車が通れるようにしたのだと合点がいった。

 まさか頂上まで車道ということは無いだろうなあと思いながら歩いた。車道は中腹から横にそれて田畑の多い所に向かって延びていた。私は登山道を見つけ歩き出した。それまで少し暑かったが、樹々が多くなりひんやりした空気が頬に感じられ気持ちが高揚してくる。さすがに誰も歩いていない。かすかに水音が聞こえてきて、道は沢沿いに続いていた。ウグイスの鳴き声と、別の鳥の鳴き声も聞こえる。休憩を兼ね立ち止まり、スポーツドリンクを飲みながら野鳥の姿を探した。樹々の葉が太陽の光を浴びて半透明の黄緑になって輝いている。鳴いている野鳥は見つからなかった。たしか海抜六〇〇ートルぐらいだった筈だ。沢沿いはその三分の一ぐらいだったかなと思いながら再び私は歩き出した。

作品名:異 村 作家名:伊達梁川