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はじっこに、歌を

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「どうしていつも、私たちって向かい合わなかったんでしょうか」
「べつに振り向くなって言った覚えはないけど」
「だって先輩のスケッチの邪魔しちゃいけないと思って」
「向かい合うと邪魔だと思ったの?」
「先輩、私の後ろ姿を描きたいって言ったじゃないですか」
「うん、まぁ、それは言ったけど」
「でも、毎日のように後ろ姿ばっかり描いてたんですよね?ワンパターンの角度から描いてて、飽きません?なのに先輩、いつまで経っても、こっち向いて、とか言わないから、私振り向くにも振り返れなかったんですよ」
責めるような口調の一之瀬とは反対に、私は笑いだしてしまった。
「なんですか、なんで笑うんですか」
「や、なんか、うん」
「答えになってませんよっ」
大笑いしている私にだんだん腹が立ってきたのか、一之瀬の顔は赤らんできている。
「あのね、笑わないで聞いてほしいんだけど」
「言ってる本人は大爆笑してるじゃないですか」
「地球は丸いからさ」
「は?」
「だからね、地球は丸いから、一之瀬が私に背を向けて歌い続ければ、地球をぐるっと一周して、私が一番最後に一之瀬の歌を聞いたことになるじゃない?」
「・・・」
「私まで歌声が届く頃には、地球全体に一之瀬の歌が響いたような気分になるじゃない」
呆気に取られている一之瀬はしばらく言葉を失くし、さっきとは違う意味で顔がみるみる赤くなっていく。
「なんですか、それ。そんなわけないじゃないですか。小学生じゃないんですよ。先輩、夢見すぎです」
「だから言ったじゃない。夢しか入っていないようなのがいい、って」
一之瀬は私のさっきの言葉を思い出したのか、しぶしぶという感情を露骨に出しつつも、黙った。
「私は、一之瀬の歌が好きだよ。一人ぼっちとか、はじっこにしか居場所がないとか、そういうのが全部なくなっちゃうような、きれいな声だもん」
私がこの学校からいなくなっても、べつの場所でまた居場所を探すことになっても、もう一人でスケッチをしていた頃のような気持ちになることは、きっとない。
この場所に辿りついたときの、あのわけのわからないさびしさは、きっと誰からも、自分さえも私を必要としていないことから来る、悲しさだったんだ。今ならわかる。
堂々としていればいい。風に煽られても、私自身がなくならなければ、それでいい。
一之瀬の姿にそれを見出せたから、私はきっと、もうはじっこがどこにあるかなんてどうでもよくなっていられる。
私は、目の前にいる一之瀬に向かって、1歩踏み出した。
「だから、歌ってよ」
作品名:はじっこに、歌を 作家名:やしろ