絵描きのはなし
“普通の女子大生”になり、卒業し、何度かの失恋を経験した今、わたしには恋人がいます。
ここまでわたしのことを認め、愛してくれる人は生まれて初めてです。結婚も考えています。
彼が傍にいてくれることで劣等感は軽減し、孤独感も随分和らぎました。腕もすっかりまっさらにきれいになりました。
絵描きがその後どうなったのか、詳しくは知りません。
時折来る携帯電話でのメールは、小文字や絵文字や顔文字だらけの“今時の女性”のメールそのものです。
彼女はあの頃言っていた信頼関係を誰かと築けたのかどうか、わかりません。
ただ、会いたいと思います。
会って、楽しいおしゃべりがなくてもいい、どこかに遊びに行かなくてもいい、ただ、絵描きに会いたいとだけ思います。
絵描きと信頼関係で結ばれたかったのはわたし自身だったのです。
願わくは、それを絵描きに伝えたかったのです。
絵描きの絵がもう一度見たいと思います。
今はどんな絵を描くのか、それとももう何も描かなくなってしまったのか、今のわたしには見当もつきません。