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飛鳥川 葵
飛鳥川 葵
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クロス 第四章 ~SYMPATHY~

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捜査の進展がないのを嘲笑うかのように、三日後、また事件が起きた。現場は西はずれの青果卸売市場。ロンはデービス刑事に覆面パトカーを運転させて、現場に到着した。チェイス係長は先に来ていた。
「状況は?」
「今度は二名だ。正確には二体だが」
「二体? アンドロイド部隊までも殺られたんですか」
「そうだ。ご丁寧に二体ともクロスに仕立て上げられとるよ」
「アンドロイドでも駄目なんですか、奴は」
 ロンはいたたまれなかった。アンドロイドでも止められないクロスを、どうやって捕まえるというのだ。アンドロイド部隊に期待していただけに、ロンは落胆した。この先どうしたらいいのだろうか。
 その時、鑑識が声を上げた。
「血痕です!」
 現場が突如色めき立った。クロスが負傷した可能性が出てきたのだ。
「付近の病院を当たれ。銃創患者がいないか捜すんだ」
 チェイス係長は叫んだ。捜査員達は散り散りに現場を離れていった。ロンとデービス刑事は現場に残って鑑識の様子を見つめていた。

 会議では銃創患者の報告がなされていた。三件中二件は誤射で負傷、残りの一件は夫婦喧嘩の果ての発砲だった。現段階では病院からの報告待ちというコトになった。
 アンドロイドは後頭部を撃たれていたため、電脳の解析が難しく、断片しか洗い出せなかった。映っていたのは黒ずくめの背の高い男だった。簡易画像解析の結果、男は一九〇センチ、細身、顔の下半分をマスクで覆っており、眼はブラウン、髪は黒だった。服装は黒のロングコート、黒のボディスーツ、黒の手袋と、まさに黒ずくめだった。
「カーター刑事、待つしかないんでしょうか」
「いや、1軒行ってない所があるはずだ。そこに行こう。運転してくれ」
「分かりました」

 ロンとデービス刑事はレインボー・ストリートの一角にある、寂れた診療所の前に覆面パトカーを停めた。看板には、ただ「診療所」とだけ記されていた。ロンは扉を開けると、すぐ近くの受付に声を掛けた。
「先生いるかい」
「奥にいますよ」
「なんだか嬉しそうじゃないか、テリー」
「分かります? 実は金払いのいい患者さんがいたんですよ」
「ほう、そいつぁよかったな」
 二人は受付を後にして奥の部屋に向かった。中から悲鳴が聞こえてきた。患者がいるようなので待つコトにする。しばらくすると、腕に包帯を巻いて手で押さえながら、啜り泣きをしている男が出てきた。
「次の方」
 男の声がして、二人は中に入った。
「なんだ、ロンか」
「ドクター・ランドルフ、あんた一体何したんだ、さっき」
「何、注射は嫌だというから、麻酔なしで縫ってやったのさ」
「全くあんたって人は」
「用件はなんだ」
「昨夜、黒ずくめの男が来なかったか? 銃創患者なんだが」
「医者には守秘義務ってのがあるんだがね」
「無免許の闇医者がよく言うぜ」
 ロンは財布から一万バックス紙幣を一枚取り出して、ランドルフに手渡した。
「やれやれ。来たよ。一九〇センチの黒ずくめの細身の男が」
「どんなだった」
「ドテッ腹に二発食らってたよ。麻酔はいらないと言うから、無しで摘出、縫合したがね」
「何時頃だ」
「真夜中過ぎだ」
「コードレッドが二十三時なので符合しますね、カーター刑事」
「あぁ。それからどうした」
「血止めの薬を渡したら、十万バックス支払って帰っていったよ」
「弾は?」
「そこのトレイにある」
「押収させてもらうぞ」
 デービス刑事はピンセットを借りて弾を摘み、ビニール袋を貰って中に二つとも入れた。鑑識に回して、弾道検査とDNA鑑定をしてもらわなければならない。二人は礼もそこそこに、急いで署に戻った。
 夕方に弾道検査の結果が出た。被害体のアンドロイドNO.11とNO.12のうち、NO.11の銃と線状痕が一致したそうである。これで先に殺られたのがNO.12というコトが確定した。DNA鑑定は一週間後に結果が出るというコトだった。

 それから一週間は平穏な日々が続いた。聞き込みの成果は上がらずじまいだったが、鑑識から情報が上がってきた。
 一つ目はDNA鑑定の結果だった。二つの弾丸から採取された血液と現場の血痕が一致したとのコトだった。参考人としてドクター・ランドルフが呼び出されたが、ロンが聞き出したコト以上の情報は引き出せなかった。
 二つ目はアンドロイド部隊付き鑑識から、襲撃された二体のアンドロイドの電脳の解析が進み、画像と音声が修復されたとのコトだった。電脳とは機械化された脳のコトで、全ての情報はデータ化されて保存される。
 会議室のスクリーンが下ろされて上映された。映像はクロスを職務質問しているところから始まった。クロスは「マンハント」と答えていた。そして決闘を申し込むと、十バックス硬貨を放り投げた。硬貨が地面に落ちるのと同時に、クロスはトゥーハンドで撃ってきた。かなりの早撃ちである。映像が斜めになり、地面が映し出され、二発の銃声とともにブラック・アウトした。
 続いて、倒れたアンドロイドとクロスの後ろ姿が映し出された。もう一体の映像だ。アンドロイドはいついかなる時でも後ろから撃たないように設定されている。職権行使の行き過ぎを防ぐためである。
 クロスが振り返ると、すかさずアンドロイドは二射連続で発砲した。クロスが崩れる。アンドロイドが歩み寄り、顔を上げさせる。認証システムを作動させて登録するためである。クロスは笑い声を上げると下から二発撃ってきた。覆い被さるアンドロイドをすり抜けて、更に二発撃ち込む。笑い声とともに、こちらもブラック・アウトした。
「以上が鑑識からの情報だ。クロスが『マンハント』と言っている以上、これは無差別連続銃撃事件として取り扱うコトとする。何か質問は?」
 ロンが手を挙げた。
「射殺の許可は? それとガンマン協会等への連絡は?」
「基本的には生け捕りだが、奴が早撃ちである以上、後ろから撃っても構わん。やむを得ん場合には射殺も許可する。ガンマン協会、用心棒協会、バウンティ・ハンター協会、軍へは自粛勧告を出す。他には?……ないようなので、以上。解散」
 チェイス係長はそう言うと早々と会議室を出ていった。室内はざわめいていた。
「連中、従いますかね、カーター刑事」
「バウンティ・ハンターや軍人は従うだろうよ。なんせクロスのコトは伏せてあるからな。だが用心棒とガンマンはそうもいかんだろうよ」
「自警団でも組んで巡回しそうですよね」
「だろうな。厄介なコトにならなきゃいいんだが」
「例のなんでも屋はどうでしょうか」
「動くだろうな。優秀な情報担当がいるからな。ただ早々には動かんさ」
「どうしてですか」
「優秀だからさ。動くなら時機を見て動くさ」
「血気盛んな奴等から動くというわけですね」
「そうだ」

 オール・トレード商会の電話が鳴った。ビリーは夕飯の後片付けで忙しいのでアレックスが出た。
「はい。オール・トレード商会」
「オレ、ヨハン」
「どうした。仕事中だろ」
「まぁ、そうなんだけどさ。用心棒からいい話聞いたもんだからさ」
「いい話?」
「協会から自粛勧告が出たんだとさ。で、連中、有志募って自警団組むって言っててさ」