ありがとう
「分かった。でも私はここにいるわ。あまり遠くに行かないようにね…」
「うん…」
私は外へ出た。
見知らぬ町、だけど、福間先輩なら見知った近所。
私は公園を探した。
公園はすぐに見つかって、階段を登った場所にあった。
先輩の言うとおり、ちょっと高い位置にあって、他よりも空が広く見えた。
もうすぐ夜になる。
黄昏がゆっくりとやってくる。
それを見上げると、先輩の声が脳裏に蘇った。
――きれ〜だね。君が撮ったの?――
「はい。海とか空とか…好きなんです」
――ああ、だから…その絵、とっても綺麗だからそーだと思った――
「ありがとう…ございます」
独り言の声が、かすれる。
――その場所、高い位置にあるから結構景色いいんだ――
空のグラデーションが滲んでいく。
滲んで、かすれて、でも、混ざった色がまるで光を屈曲させて輝いて見えた。
「先輩の言うとおり、ここは…とても…綺麗な場所です…ぅぅぅ…」
胸から込み上げてきたものがある。
耐え切れずに、私はその場にしゃがみ込んで溢れてくる涙と鼻水を手の甲で拭った。
拭っても拭っても、追いつかず、まるで手を洗ったかのようにびちょびちょになった。
それでも涙は止まらない。
「福間先輩、…悲しんでも…いいですよね?」
たった一日のほんの数分の出会いだった
「先輩の事、よく知らなくても…私、悲しんで良いんですよね?」
たった数分で交わした会話、それだけが私が持つ先輩の記憶…
「先輩が死んで……凄く凄く、苦しくて、悲しいです…」
たとえ、先輩が忘れていても
私はあの瞬間を……覚えているから…
「だから、皆と同じように…泣いても、いいですよね…」
あの瞬間、とっても楽しくて、ドキドキして、嬉しかったから…
「私っ…会うの、楽しみにして、たんです、先輩と、また逢う、の…楽しみに…っ」
それ以上、声がかすれて…私は何も言葉を発することができなくなった。
涙だけが、止めどなく、流れていく…
最後に福間先輩の顔を見て、私は彼の頬にそっと触れた。
とても冷たくて、蝋人形のようで…また泣きそうだったけど…
「先輩が部活に遊びに来てくれたとき、とっても楽しかったです……」
でも、最後のお別れは笑顔で…って、決めてしまったから。