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ありがとう

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 泣き崩れる先輩を、私と一緒に来た親友が慌てて支える。
 先輩の様子を見て、同じタイミングに来た後輩が、雪崩のように人を押しのけて福間先輩に群がった。

 呼びかけて、返事が無く
 触っても、反応が無く
 手を握っても、握り返してはこなかった。

 誰かが鼻に手を置いて呼吸を確認したり
 誰かが心臓の音を聞こうとして耳を胸につけても
 皆、泣き崩れるばかり
 私はそんな中、病室のドアより中に入ることもできず、ただ呆然とその光景を見ていた。

 まるで第三者のように…




 私が入学して美術部に入ったとき、福間先輩はもう卒業していた。
 私が先輩に出会ったのは、一年前のこと。
 たまたま先輩が部活に遊びに来た、その一時間の間だけだった。

 『やっぱ、新しい新入生は若いなぁ〜』

 福間先輩は後輩に言いながら、新入生に目を向ける。
 私はちょっと照れくさくて、あんまり見ないようにしながら作品を書いていると

 『色使い、綺麗だね』

 福間先輩が背後に立って声をかけた。

 『…え?そ、そーですか…?』

 その時書いていたのは夕暮れに染まる海の絵。ありふれた水彩画…

 『写真見て書いてるの?』
 『は、はい』

 福間先輩は机の上に置いてあった写真を手に取るとゆっくりと目を細めた。

 『きれ〜だね。君が撮ったの?』
 『はい。海とか空とか…好きなんでつい…』
 『ああ、だから…その絵、とっても綺麗だからそーだと思った』
 『あ、ありがとうございます!!!』

 褒められて、凄く嬉しくて、つい椅子から立ち上がってしまった。
 私の反応に回りが爆笑して、恥ずかしくて下を向くと

 『じゃ、今度…合宿とかで皆でどっか出かけるか?』

 何気に呟いた福間先輩の声に、周りが賛成の声を上げる。
 急に何処へ行こうかと周りがざわめく中、福間先輩は私に写真を手渡しで返してくれた。

 『空が見える場所にしよう』
 『広い場所とかあるんですか?』

 聞いたら、福間先輩は自信を持って頷いた。

 『あるある、俺ん家のすぐ近くに、公園があるんだけど、その場所、高い位置にあるから結構景色いいんだ』
 『そうなんですか?』

 私が聞き返すのと同じタイミングで先輩の名前が呼ばれた。
 先輩は友人に『すぐ行く』と言いながら私に振り返った。
作品名:ありがとう 作家名:森羅秋