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それぞれのプロローグ

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「……そんなことがあってね。一昨日から、我が姉妹校は亡霊及び魑魅魍魎と寝食と勉学を共にすることになったようだよ」

 午後の授業を丸々潰して緊急集会が行われ、そこで告げられた内容は。とてもじゃないが、憤るべきか失笑するべきか呆れるべきかかなり迷うようなものだった。
 博拓が黙った途端、学年男女関係なくあちこちざわめきがわきあがる。教師も数人話し込んでいるので、その騒ぎを止められる者は居ない。さながら講堂内は朝の電車のラッシュの如しだ。

 なにをやらかしたんだあのバアさん姉妹は。呆れ返っている者が四割。
 大丈夫なのか、怪我人などは出ていないのか。学園に血縁者か知人がいるのか、心配している者が五割。
 そんなマンガや映画みたいなことがあるものか! 一割ほど、まだ半信半疑な者も居た。

 ごおおん。

 試合中の野球場より騒々しい講堂内を一度鎮静するため、博拓氏は秘書に銅鑼を打たせた。上座も下座も一気に静まり返る。

「さて、諸君」

 どうやらまだ話は終わりではなかったらしい。

「これは余談なのだがね――」

 この学院の総帥は、もったいぶるかのようにやや間をおいてから静かに話しはじめた。

「昨日、この学院の第五書庫に保管してあった魔道書の一冊が紛失してね。最初は盗難かと思ったのだが、それが置いてあったテーブルの上には四角形の燃え跡が残っていた。つまりすっかり燃え尽きてしまったようなんだ」

 “燃えて”しまった?
 “燃やして”しまったのではなくて?

 はてな。理事長とその秘書以外全員が首を傾げた。
 疑問満載の沈黙の中、百合(ユリ)生徒会(女子生徒のみで結成される生徒会)副会長の魔蝶蓬晶(マチョウ・ホウショウ)がはじめてその空気を破り、全生徒を代表として質問した。

「あの、理事長。まさか……」

 理事長はそれに応えるように笑ったが、なにか言う気はないようだ。
 博拓氏の斜め後ろに控えている秘書が代わってその『まさか』に答える。

「はい。なんでもその魔道書は、百桁ほどの邪悪な化け物が封印されていたものだったそうで御座います」

 どんな状況でもポーカーフェイスを崩さない秘書が、さらりと言い終わったその後、行事用の講堂は水を打ったように静まり返っていた。
 それは一瞬の出来事であったが。

 ――こんな風に、日常というものは些細な出来事からあっさりと私達の前から姿を消してしまうものだ。
作品名:それぞれのプロローグ 作家名:狂言巡