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河上かせいち
河上かせいち
novelistID. 32321
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モントリオールのおじいちゃん

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Prologue



 僕はアレックス。
 アメリカ生まれアメリカ育ちのカナダ人。
 僕は小学生の頃、アメリカの地方都市に住んでいた。
 僕にはおじいちゃんがいた。
 おじいちゃんはアメリカの北、カナダのモントリオールに住んでいた。
 年に数回しか会えないけど、僕はおじいちゃんが大好きで、まるで兄弟みたいに仲良しだった。
 夏休み、おじちゃんはオンタリオ湖でボートの乗り方を教えてくれた。
 クリスマスには必ずおもちゃをくれるし、ボクシング・デイには、バーゲンで両手いっぱいのチョコレートとスナックを買ってくれた。
 寒い冬、セントラルヒーティングの効いた家の中で、おじいちゃんが若い頃ジャーナリストだったときの話や、世界中の色々な国の話をしてくれた。
 僕はおじいちゃんが大好きだった。
 

 あるときから、僕はおじいちゃんとあまり話をしなくなった。
 というか、おじいちゃんが何を喋っているのかてんでわからなくなってしまったのだ。
 身振り手振りで何かを伝えようとしているのはわかるんだけど、なんだか口の中でもごもご言うだけで、全然聞き取れなくなってしまった。
 おじいちゃんはいつでもどこでも車椅子で移動するようになった。
 家の中でも、外に出ても、お店やレストランや駅でも。
 だからもうボクシング・デイにデパートに行って大量のおもちゃやお菓子を買ってくれることもなくなったし、一緒にボートに乗ることもしなくなった。
 バスルームのトイレにすら、おじいちゃん専用の介護用便座が取り付けられた。
 気が付いたら、おじいちゃんは家族とも誰ともあまり話さなくなっていた。
 そして、ほとんど笑わなくなった。
 一日中リビングで車椅子に座って、ブランケットを膝に乗せて、ぼーっとしていた。