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Minimum Bout Act.02

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「今日は上で夢を見てた連中も、明日にはこの下町で新聞紙を布団代わりにしてるかもしれない。ここはそういう所さ。あんたらみたいに自分たちから進んでこんな所に住もうって変わり者もたまにいるがね」
 そう言ってブルースは豪快に笑った。朝から元気がいいことだ。
 そしてシンの前に暖かいコーヒーを置くと、自分も隣りに腰掛けて上を見上げた。
 相変わらず上はきらびやかで美しくて、近代的なビルが品よく立ち並んでいる。
「で?」
 一口コーヒーを飲んだシンがブルースに尋ねる。
 ブルースはすうっと小さなCDをテーブルの上に置き、ため息を吐いた。
「リドヒムかららしいが、これを届けてくれたヤツの話しでは、あっちはかなりヤバい状況だと……」
 リドヒムと聞いて、シンは一瞬戸惑った。そしてゆっくりと受け取ったCDを上着のポケットに仕舞い、目の前を通り過ぎて行く人の流れに視線を向けた。
「あそこの情勢はいまだ不安定だからな」
 過去の映像と同時に嫌な思い出もよみがえり、シンは胸の奥がチリチリと痛むのを感じた。
「半年程前に一度派手にやりあってから、また治安が不安定なんだろ? 新聞で読んだよ……戦争か。結局どこへ行っても人間のやることは大昔から変わらないよなあ。宇宙に出ても、地球にいた頃の食べ物や飲み物を必死こいて作って食ってるんだし」
 ブルースの言葉を聞きながら残りのコーヒーを飲み干すと、代金をテーブルに置いて立ち上がる。
「ご馳走さん」
「ああ、またいつでも飲みに来な」
 笑顔で言うブルースに別れを告げ、住み慣れた廃ビルを目ざして歩き出した。
 薄暗くて狭くて臭いこのベニーランドの下町でも、あそこにいるより数百倍ましだ。
 そう、シンが生まれ育った惑星『リドヒム』は、何十年も前から内戦が続く、地獄のような星。地獄など見た事はないが、もし存在するとすれば、それは人間の残酷さそのものだとシンは思う。
 そして戦地が地獄なのだと痛烈に感じる。
 人間ほど残酷で優しくて脆くて強い、不可思議な生き物は存在しない。愛を訴える一方で生きる為に平気で人を殺す。矛盾しているくせに法則的だ。
 物心ついた頃には銃を握らされ、家族を守る為に人を殺して来た。シンはそんな生活がずっと嫌だった。
 いつか戦争などない世界で暮らしたいと願いながら、それでも家族の為にリドヒム政府軍の特殊部隊に13歳で入隊した。
作品名:Minimum Bout Act.02 作家名:迫タイラ