青春の輝き
今、私はホールの客席にいる。ステージの上には、プロのサクソフォン奏者となった佳宏が、スポットライトを浴びて立っている。
バックの吹奏楽とともに演奏しているのは、アルトサックスのために編曲されたカーペンターズの名曲。今の佳宏にこそ奏でることのできるうっとりと甘いメロディー。こうして目を閉じて聴いていると、佳宏と過ごした過去の出来事が一つ一つ思い返される。
あのときナギサと名付けられた楽器は、今は私の手元にある。佳宏から楽器ケースを渡された時、不思議と思い出を捨てられたとか突き返されたというような悲しい気持ちはせず、私にはもういい音を出すことはできなかったけれども、懐かしい香りが愛しくてならなかった。あの頃の思い出は全て、ナギサとともに私のところに戻ってきて、私と一体のものとなったのだ。
曲が終わり佳宏がお辞儀をする。きっと佳宏にも、広い客席の中、ここでこうして手を叩いている私の姿が見えている。
私は惜しみない拍手を送る。きちんと感じた、佳宏がうたうものに。大切な音楽に。
輝いていたあの頃から確かに繋がり続いている、私たちの今に。