ことばの雨が降ってくる
*もう一つの処女作*
処女作のことを思いだしたついでに、漫画の方の処女作のことも書いちゃいます。
32ページのちゃんとしたストーリィ漫画を描いたのは、中学3年のことでした。
(おいおい受験勉強真っ最中でしょ)
それも何度か書き直したので、完成したときには高校生になっていました。あはは。
そもそもことの発端は、中学2年もおしまいの頃、同じクラスのSさんが、ワタクシのところにつかつかと歩み寄り、「ねえ、わたしが書いた話を漫画にしてくれない?」と言ったことからです。
その彼女の容貌は、ワンレンで色白で黒縁めがねをかけた、そう、一昔前の漫画のキャラによくあった、いわゆるガリ勉女史風でした。
実際、彼女は勉強はできましたし、いささか自分の意見をごり押しする人で、ワタクシにはいくぶん苦手なタイプのクラスメイトでした。
彼女の気迫に気圧されて、「うん」と返事をしてしまったワタクシ。
翌日、彼女は自分の作品“銀色のバラ”を持ってきたのです。
言ったからには後へは引けず、まもなく訪れた春休み一週間かけて絵コンテを描き、下書きまでこぎつけました。
ペン入れには時間がかかることを告げ、完成まで気長に待ってもらったわけですが、描き終えたときはほっとしました。
描き直した最後の一枚をわたすときには、別々の高校に通いはじめていました。
通学電車が同じなら問題はなかったのですが、ワタクシは上り、彼女は下りなので駅に行く時間がまったくちがったのです。
それで、ワタクシは家を早く出て、駅で彼女を待って、手渡しました。
その後、10年ほど経って彼女と再会した時は、彼女はあの頃よりずっと柔らかい雰囲気で、話しやすくなっていました。
そのとき、ワタクシは“銀色のバラ”のことを聞いてみたのです。まだ持っているのかと。
彼女の話はこうでした。
彼女はしばらく横浜の親戚の家に住んでいたことがあり、その家に引っ越すとき、漫画も一緒にもっていったのです。
一時期アメリカに行き、そのあいだに横浜の家が火事になってしまい、その漫画も焼けてしまったのだと思い、がっかりしたそうです。
ここまで話を聞いて、ワタクシも燃えてしまったのかとがっかりしました。
ところが彼女の話の続きには、びっくりしました。
帰国した彼女は、実家に帰ってきました。
ある日、自分のものを整理していたら、押入から漫画がでてきたのです。
「持っていったのかと思ったら、実家にしまい込んであったのよ。てっきり燃えたと思ってがっかりしたけど、あってうれしかった」
この言葉を聞いて、ワタクシもすごくうれしかったのはいうまでもありません。
早速、彼女から借りてコピーをとりました。
今みると、へたくそで笑っちゃうんですけど、なつかしい思い出のつまった作品です。
作品名:ことばの雨が降ってくる 作家名:せき あゆみ