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水城 寧人
水城 寧人
novelistID. 31927
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俺と超能力者の学校生活。

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プロローグ



「斉藤君、これ、図書室に運んどいてもらっていい?」
 放課後、ランドセルを背負って教室から出ようとした俺を、担任の先生が呼び止めた。手には見慣れた赤い辞書があった。
「いいですよ。カウンターに置いておけばいいんですよね?」
「うん。頼んどいて言うのもなんだけど、下校遅れないようにね」
 俺たちの小学校では、帰りは家の地区の近い人たちが集まって、班になって下校するようになっている。先生たちは人数も数えるので、一人足りないと班の人全員に迷惑をかけてしまうのだ。
「分かっています。すぐだし、大丈夫です」
 そういって、俺は教室を出た。図書室は低学年の棟だから、本当はそこまで近くない。あまり時間もないので、俺は息を切らせて図書室に走った。
 汗だくでどうにか到着し、戸に手をかけた瞬間―――

どさっ・・・

「あっくそっ」

だだだだだ、どんっ

物凄い物音と、男の子の慌てるような声が聞こえた。
 俺は突然の出来事に驚きながらも、そっと戸を開けて中を覗き込んだ。そこには、本棚の前のイスに座った少年と、床に散らばるたくさんの分厚い本があった。
「はあ~・・・あと少しで終わったのになあ・・・」
 座っていた少年はそうため息をつくと、立ち上がった。後ろ姿しか見えないが、背格好からして、六年生だろう。机の上に黒いランドセルがあるから小学生だろうが、身長がそうとう高い。しかし、全校生徒ほとんどに面識のある俺は、彼はこの学校の生徒ではないだろうと思った。全く見かけた覚えはない。
 少年は右手を上げかけて・・・・・・おろした。どうしたのかと見ていると、彼はゆっくりと振り向いた。俺と目が合う。
「・・・・・・君は?」
 訝しげにたずねる声はどことなく震えていたが、大人びた落ち着いた声色だった。
「・・・・・・ここの生徒。それより、お前こそ誰?」
 幼くも整った顔立ちをしていて、やっぱり知らない生徒だ。やや眠たげな目が、俺の質問を聞いて、楽しそうに輝く。
「誰だと思う?」
 どことなく安堵したような響き。その響きは、彼に対する興味をわかせた。
「知るかよ。この学校の生徒じゃないだろ」
「まあ・・・正解。じゃあ、君の名前は?」
 本心ではないような、乾いた声が耳に転がる。
「それより聞きたいことがある」
「答える気はないよ?」
 あっさりと少年は否定した。俺はびっくりして彼を見る。
「は?」
「だって、君が僕の質問に答えないから。ねえ、僕の名前は?君、小学生にしては頭の回転速そうだからね。聞きたいんだよ」
「頭と今の質問は関係ないだろ?」
 俺はランドセルを彼と同じ机に置くと、イスに座った。彼も座る。
「じゃあ、お前の質問に答えるから、俺の質問にも答えろ」
「ん~・・・・・・君、口かたい?」
 決まりごとのような台詞に、俺は肩をすくめた。
「知るか。勝手に考えろ」
「あっ、いい答えだね。うん、じゃあ良いよ」
 よく分からない返答に内心首を傾げたが、今は問題じゃない。
「名前は斉藤優斗。優しいに北斗の斗って書く。お前の名前は?」
「瀬川歩。歩くって字。・・・・・・君、名前の割には口悪くない?」
「ほっとけ」
 俺はランドセルを背負った。彼に対しての興味は、もう底をつきている。
「俺は帰る」
 むすっと言う俺に、彼は何も言わない。
 ただニコニコと優斗を見つめていた。
「いいの?」
 歩が最後にそういったのは、俺が図書室から出ようとした瞬間だった。
「あ?」
「何かもっと聞きたいこと、あるんじゃない?」
 それは、悪魔の笑みだった。彼の含むような笑い方。なにもかも見透かすような目に見られて、さすがの俺もすこし緊張する。
「あるわけ・・・・・・」
「たとえば、なぜ学校の違う僕がいるのか。なぜ誰も触っていないはずの本棚から大量の本が落ちてきたのか。なぜ僕はそのあとに片手を上げたのか・・・」
 俺は驚きを通り越して、気味が悪くなった。
 歩というこの少年の顔だけじゃない。言っていることが、あまりにも自分の心を読み上げるような言葉だったからだ。
「・・・・・・だから、なんだというんだ」
「別に君の気が済んでいるんだったらいいんだけどね、僕は」
 どうでもいいんだよ、僕は。別に君のことなんて。
 彼の口調は、そういっているようだった。
「教えてくれるのか」
 好奇心なんてぴったりな言葉じゃない。むしろそれを超える疑問が、口から飛び出てきた。
「うん。知りたいのなら」
 彼は微笑んだ。黒いランドセルは、まだ新しいのか鈍く光っている。俺はそれを見て、すっと落ち着いた。
 この少年だって、小学生なのだ。こんな不思議な空気にする力はあっても、なんで俺が怖気づく必要がある?いつもどおりだ、いつもどおり。
「それなら、手短に頼む」
 軽くぶっきらぼうに言うと、彼は笑って右手を上げた。
「大丈夫、すぐだよ」
 上げた右手をぎゅっと彼は握り締める。よく分からないまま、俺はその手に視線を移す。
「僕のうしろ、しっかり見ていてね?」

 その瞬間。
 歩の足元に散らばっていた本が、いっせいに宙に浮いた。