妄想その2
scene1 猫
「ねえ、私のこと好き?」
猫なで声で彼女が尋ねる。
「うん」
私は猫を撫でるみたいに、少し乱れてしまった彼女の髪を撫でる。
「あいしてる?」
彼女は私の首元に顔をうずめて、そこに口付ける。
「うん」
私は彼女の未だ熱い吐息と、猫とは異なる滑らかな舌の感触に震える。
「ねえ、ちゃんと言ってよ」
むき出しになった肩に猫みたいに爪を立てて彼女はすねる。
「あいしてる」
私が答えれば満足したように目を細める。そんな表情もまるで猫みたいだ。
「私もあいしてる」
鼻にかかる甘い声で恥ずかしげもなく彼女は言う。そして、すっと体を離して私の手を取り、指を絡める。猫が足元にまとわりつく様を思い浮かべた。
「ずっと一緒にいようね」
彼女のいつもの口癖。喉元をくすぐってもいないのにくすぐったそうに笑っている。
「うん」
私もそれと同じような顔で笑ってみる。
「絶対だよ。卒業しても、大人になっても、おばあちゃんになっても、ずっとずっと、一緒だからね」
猫のような彼女はある日突然私の元にやって来たように、ある日突然私の元から去っていくのだ。
「うん。ずっと一緒」
そうとわかりながら、私は嘘を繰り返す。