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恋愛掌編集

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ネタバレ予報


 彼女は2学期に僕のクラスに転校してきた。
 自己紹介を「三隅古都です」だけで済ました、やぼったく髪が長いあ地味な印象の女の子だった。席は窓際で山本の隣だったことを何故か憶えている。最初の間、クラス内の女子達は自分たちの派閥に入れるかどうか手を付きかねているようだった。女子というのは何故か大きなグループを必ず二つは作って暗黙に不干渉の了解が出来る。彼女の自身も、そういうつきあいに入るつもりはなく、いつも一人だった。別に虐められているのでも無視されているのでもなく、ただ周りとの関係が希薄だった。昼の休憩時間での定位置は、図書室の端で、長机の尺を計算せずにおいたので微妙に空いた空間を埋めるために置かれた真四角の机に備えられた窓側のイスだった。
 そんなことを僕が知っているのは、その向かい側に座っていたのが僕だったからだ。正確には僕がいつも座っていた殆ど専用席の様な机の向かいに彼女は気にも止めないでトスンと軽い音を立ててイスに座っていた。最初の内は席が余っていなかったのだろうと思っていたが、いつも同じところに座って来たことで何か理由があるのだろうことは理解出来た。何か聞こうかとも思ったが、なんと言えばよいのか思いつかず、そのままにした。
 話しかけてきたのは彼女の方だった。
「ねえ。」
「はい?僕?」
「そう。貴方。その本、何時ぐらいに読み終わるの。」
「ああ。」
 彼女の手元を見ると、僕が丁度読んでいる本の上巻があった。
「読みたいの?」
「読みたいの。」
「じゃあ良いよ、先に読みなよ。」
「良いの?」
「良いの。」
 彼女は差し出した僕の本を相変わらずむすっとした顔で受け取った。
「ありがとう。」
「良いよ、その事件の犯人は母親だから。」
 無表情の女性にハードカバーの本で手を叩かれたのは人生でその時が初めてだった。これで向かいの席に座らなくなるかと思ったら、次の日からも変わらずに彼女は同じところに居座った。
「横に誰か居ると気になるのよ。」
 いくらか後になって聞いたことだ。手を叩かれてから、どちらともなく幾らかを話合うようになったからだった。
「前は良いの?」
「前は良いの。」
「何で。」
「前には本があるでしょう。」
「そう。」
「そう。」
「あ、その本の主人公は実は女。」
「そこは、もう読んだわ。」
「ああ、そう。」
「ええ、そうなの。」

 彼女が学校から居なくなったのは、冬休みの終わった3学期からだった。移動興行する親の仕事のせいで最初から2学期の間しか居られないらしかったと誰かに聞いた。2学期最後の彼女との会話を今でも思い出すことがある。

「ねえ、この本の結末がどうなるか知ってる。」
 そう言って彼女は一冊の本を取り出した。それは本の形をした日記というか自分史を書き込む本だった。
「馬鹿だね。僕は占い師じゃないよ。」
 曖昧な表情をした彼女の帰り際に言った言葉は確かこうだった。
「決めて欲しかったのよ。」

作品名:恋愛掌編集 作家名:春川柳絮