狂って踊って【第1章完】
「おー!暗くなってきたね。この様子だと、寮に戻ったらかなり暗くなってるんじゃないかな?そろそろ帰らない?」
「だぬだぬ。暗くなったら危ないもんね!」
まぁ、そうだろう。暦の上では9月。それに現在地から俺等の学校の寮までの距離は半端なく遠い。学校からとこの位置はそれ程遠くはないけど。・・・要するに寮が遠いっちゅーことだ。
然も寮は寮でも、棟がある。悠宇の寮は学校に近い2号棟。俺と晴夜は1号棟。まぁ、1、2号棟の距離はあんま変わんないけどもな。
だから急いで歩く。
人気のない道へと歩いて行くに連れて、コツ、コツ、と靴の音が鳴り響く。
―心地良い。
ずっと聴いていたい。
リズム良く刻む音は・・・・・・・・・俺は三拍子。晴夜と悠宇が四拍子。
何か悔しいような・・・ってか!
「俺と晴夜って3cm差しかねーだろ!身長が!!!」
「な、何を突然・・・!?そ、そうだけど。どうしたの?」
クッソ皆足長くて!!・・・どーせ
「どーせ俺は足短いですよーだ」
「「?」」
2人は顔を見合わせて“?”を作っている。まぁそうだろう。話の内容何か、俺しか知らないんだからさ。
そうこうしているうちに、悠宇が自分の寮の所に着いた。
「・・・あ、じゃぁ僕はここら辺で。明日、いつも通りの時間だよね?・・・遅刻しないように♪また明日!」
「おーぅ」
「バイにゃ!」
俺と晴夜は寮へ入って行く悠宇を見送ると、歩きだした。
「・・・・・・」
っむ、無言ですとなっ・・・!?
俺と晴夜で会話なしで寮に帰ったのあったっけ?いやないだろうが!
まさか、熱とかあったんじゃないのか・・・?
―無言と言う空気の中、口を出したのは晴夜だった。
「ねぇ、修弥。聞きたいこと、聞いていい?」
「ん?何だ。課題の答えに関してはノーコメントだからな」
「うっわ・・・最後に聞きたかったのに!!ぶー。・・・あ、聞きたいことって言うのはね」
珍しく真剣な顔付きになった晴夜は、歩く足を止めた。俺も驚きながらも、何を言うのかを少し考えながら歩く足を止めた。
「“好きな人”って、いる?」
「ぶふぉっ!?」
っな、ななななにを言い出したかと思えば!!す、好きな人って・・・
「好きな人・・・か。そうだな。いる、かな」
「・・・!!」
晴夜の目が一瞬、大きく開いたかのように見えた。
けど、晴夜の長い前髪で良くは見えない。けど、何となく驚いているんじゃないのかとは思った。
けど、いつものような顔になって
「修弥のクセになんでいるのさー。まぁ、僕も居るけどね」
「ならいいじゃねぇか。ってか、お前がそんな話するの珍しいな。まさか!好きな人できたとか?」
「・・・」
あ・・・俺、まさか余計なこと言ったか。時々俺は一言余計に言ってしまう。
「そう、かな?好きな人。・・・うん。好き過ぎて僕、狂っちゃう」
「そ、そんなにかよ!?」
晴夜にはしては珍しい話だった。普段いつもの2人の会話は、「腹減った」「今日あのTVやるんだって」とかの話しばっかり。つか、それしかしない。だから、俺は本当に驚いた。
けど、何でだろう。
俺もいつもとは違う話をし出してしまう。
「晴夜、今度は俺が1つだけ聞いていいか?」
「っえ?あ、な、何?」
「あの・・・さ」
その瞬間、晴屋の表情が変わっていた。
前髪で隠れていてもよく分かった。そう、まるで
―人を殺すような目。
晴夜が俺を押して、俺は木に打ち付けられた。そして、瞬時に晴夜は俺のYシャツのエリを掴み、鼻と鼻が近づく位の位置になった。
「った・・・は、晴夜、何するんだよ!!!」
「え?そうだねー。急に修弥が可愛い顔したから欲しくなったー」
「はぁっ!?」
“欲しくなった”って何だよ・・・!?アイツの目線が怖い。目が見れない。
「あれ。何で目を逸らすのさー?さっきだって、一緒に顔を見ながら喋ってたじゃん。ほら、こっち見てよ、修弥っ!!」
「っんん!!!???」
俺の名前を叫んだ否や、俺にキスをした。とても、激しく。
「っや・・・めろ、っは、るや・・・んんっ!!」
晴夜の舌が俺の口の中に入って、俺の舌と絡み合って・・・キスなんか全くの縁がない俺にとっては、される度、酸素がなくなってくる。だから自分でも思ってもいない声が出て来てしまう。
「嫌っんぅ・・・晴夜!!やめろ・・・っん、やめて!!!」
「!!!」
晴夜は俺から顔を離した。あ・・・俺、泣いてる。
「・・・な、んで、こんな事したんだよっ!?可笑しい、晴夜可笑しいって!!」
「修、弥・・・・・・・・・・・・そうだね。僕、可笑しいのかも」
「え・・・っあ!?」
晴夜の動きが全く見えなかった。俺の頭に晴夜の手で押され、さっきよりも深い、深いキスをされる。
「んぅ・・・!!は、る・・・やっ!んんっ!」
駄目だ・・・キスだけで体全身の力が抜けている。今俺が立っていられるのも、晴屋が支えているからだ。
晴夜って、こんなに力強かったっけ?痛い程、力が俺に伝わっている。
「・・・はぁ、は・・・修弥、可愛いよ?凄く。こんなに甘い声出して・・・誘ってるの?場所考えてみて?」
「っ!!!嫌・・・離して・・・帰る。帰らせて・・・!!お願い、お願いだから・・・!!」
「わかったよー。・・・何て言うと思う?僕、もう我慢できないんだ。好き、好き。修弥が好き。愛しているよ!!悠宇なんかに渡さない!!」
「っん・・・けて、んんっ!助けて!!いやぁっ!!!」
俺は泣きながら助けを求めた。誰でもいい。こんな姿を見られてもいい!だから・・・助けて・・・
「悠宇っ!!助けてぇっ!!!」
「っ!!!」
「っが!!!???」
晴夜は俺を思いっきり殴った。俺はそのまんま地面に倒れた。
「・・・あっ!悠宇?ゴメンねー僕僕!晴夜だよ。・・・約束、破っちゃった♪修弥、悠宇に助けを求めたからさ、ムカついて殴っちゃって今倒れてる。後で助けに来てね!バイバーイ・・・・・・・と」
「ひっ・・・」
俺、情けない声出してる。何で・・・?さっきまで馬鹿して笑ってたじゃん。なのに、なにのどうしてこんな事になったの・・・!?
「・・・怯えている修弥もすっごく可愛いよ。次は、修弥の体も心も全て貰うから♪」
「・・・・・・狂ってる」
俺は顔を上げて睨んだ。
ハハハと、手を振りながら、晴夜は闇へと消えていった。
「―ぅや、修弥!!」
「!!ゆ、う・・・」
悠宇が走ってここに来た。酷く焦っている表情。
悠宇は俺を抱き上げると、抱き締められた。
「っゆ、悠宇!?い、痛いって」
「修弥、修弥っ!!ゴメンね助けてあげられなくて!!!怖かったよね・・・」
「!!あ・・・っ・・・」
そう、怖かった。いつもとは全く違う晴夜に俺は、今でも体が震えている。
「・・・わ、かった」
「修弥・・・」
「怖かった!!怖かった・・・悠宇!!うっ・・うぅっ・・・」
悠宇は俺を優しく抱き締めて、頭を撫でている。
とっても気持ちいい。自然と、震えていた体がなんとか治まった。
「悠宇・・・あのさ・・・悠宇の寮に居てもいい?」
「そうしたほうがいいよ。晴夜の為にも、修弥の為にもね」
悠宇は俺をヒョイっと持ち上げた。
「え!?ちょっま・・・俺、1人でも歩ける」
「泣いた顔なんか見せません。可哀想でしょ?」
作品名:狂って踊って【第1章完】 作家名:淺香 悠衣