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刻の流狼第三部 刻の流狼編

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 ベリザはソルティーの手を借り、もう一度ベッドに俯せになり、そのまま目を閉じた。

「ソルティーはいいの?」
 椅子に戻ろうとするソルティーの後ろに従い、さっき見てしまった彼の仕種に言葉を付けた。
「ほんとは迷ってんだろ?」
「……そうだな、迷ってる。このまま関わり合いにならずに、さっさとこの国を去った方が安全だ。しかし見過ごすのも可哀想だ。だからお前を信用して聞いた」
「いいの?」
「ああ。お前の判断に従うのが一番良い方法だと思ってる。でも、どうして判った?」
 椅子に腰を落ち着かせ、目の前に立つ恒河沙に視線を合わせて聞くと、自信たっぷりの返事か帰ってくる。
「ソルティーだから」
 ソルティーの小さな言葉一つにも耳が傾き、行動総てが視界に入っている恒河沙には自然な、当たり前の事だった。
 大抵は勘だけでそう思うが、傍に居ればそれだけよく分かる気がする。
 だからもっと傍に居たかったので、ソルティーの膝に跨り笑い掛けた。
「でも、ソルティーも俺の考えてる事判るじゃん」
「お前は顔に出やすいからだ。直ぐに此処に、今何を考えてますって書いてある」
 昨日の風呂場での一件以来、何を言っても表情の緩みっぱなしの恒河沙の頬を指で摘んで、彼が期待する言葉は与えない。
 須臾が口を酸っぱくして言い続けた「甘やかすと増長する」が今更ながらに思い出される。
「書いてねぇよ。ソルティーの嘘つき」
「嘘じゃないよ、私にはハッキリと見えるから。ほら此処に、子供扱いするなって書いてある。ああ、小さくお腹が空いたとも有るな、後で食べに行こうな」
「……う」
 抓られて延ばされた頬もそのままに、恒河沙が真っ赤になって狼狽える。その顔にソルティーが笑い掛けると更に狼狽は激しくなった。
「ほんと、お前と居ると楽しいよ」
「……嬉しいような馬鹿にされているような、複雑な気分だぞ」
「半々で考えていれば良いよ」
「ぶぅ〜〜〜」
 二人がこんな風にたわいのない話しに興じている頃、須臾だけが孤軍奮闘し、興奮して盗みを働こうとするミシャールを取り押さえようと懸命になっていた。
 彼が傷だらけの姿で彼女を連れ戻すには、もう少し時間が必要だろう。


episode.23 fin