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「…………わーるかったわね。あぁあっ！　あんた達なんか連れてると、ろくに彼氏もできないじゃない。何かあると話しかけてきて、お陰でこっちは独り言大魔王じゃない」
“そうね、そんな気味悪い子、誰もお嫁には貰ってくれないわね”
「誰の所為かって言ってるんだけど？」
　周囲に誰も居ない事を確かめてから立ち止まって、抑えていた声を普通に戻す。
“誰の所為？”
“それは勿論、瑞姫の所為ね。瑞姫が声に出さなくても思ってくれれば、それで聞こえるのに、思った事をべらべらと口にしてしまう瑞姫の所為”
　核心を突いてから抉る声の言葉に、瑞姫は胸を押さえる。
　依代としての付き合いは瑞姫とが一番長いのが原因か、声は瑞姫に怒鳴られながらも彼女の弱みは握っているのだ。
　もし現実に声に主に体があり、瑞姫と普通の人として出会っていたなら、犬猿の仲になるか、大の親友と成るかのどちらかだっただろう。
「あんた達、ほんとに何時か見てなさいよ。絶対、ぜぇーーーったい、簀巻きにしてどぶ川に捨ててやるから」
　怒りに任せ歩き出す足には渾身の力が宿る。
その姿が見えているかの様に、声は瑞姫の中で楽しげだった。
“あら、それ楽しそうね？”
“そうね、楽しみね”
「こんのぉ〜〜。“フェックユー！　ガッデム！　アスホール！　ユアクレイジー！！　ゴォーーートゥーーーヘルッ！！！”」
“な、何？　今のは何？”
　腹いせに思いつく限り、此処では訳せない下品な悪口を並べ、焦る声達の様子にすっとする。
　手も出せない、口でも勝てなければ、これくらいでしか解消できない。
「向こうの挨拶よ。今度使ってみれば？」
“……嘘ね”
“ええ、絶対騙そうとしているわ”
　疑いしか持たない声に、瑞姫は失敗かと思う反面、信じられなくて良かったとほっとした。もしも声が誰かに使うとすれば、それは慧獅か晃司かのどちらかでしかない。こんな事を口にしたとばれたら、半永久的に瑞姫は彼等に虐められるに決まっている。
　幾ら何でも、未だ夢見る少女を気取る彼女としては許し難い事だ。
「まっ、良いけどね」
　取り敢えず、瑞姫のしたかった事とは程遠いが、ソルティーの頼みを一つは叶える事は出来た。
　これから先何時会えるかは判らないが、彼の言ったように頑張るしかない。少なくとも彼は前を向いている。ならば自分もそれに応えなくてはならない思いが、更に強くなった。
　何かあればまたその時考えればいい。その時々に出来る、最大の事を。
　そう心に誓い、腕を高らかに瑞姫は歩く。
　誰かの為にのその前に、自分自身の為に前に前にと、足を進めた。


ｅｐｉｓｏｄｅ．２０　ｆｉｎ