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刻の流狼第三部 刻の流狼編

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 誰に何と言われようと瑞姫を一番に思っていると自負し、心配もしている。だが、心配してもどうにもならない事は、放っておくのが慧獅の性格だ。
「それに、あいつの行き場所は想像できる。単純だからな」
「……? ……あっ、まさかっ!」
 慧獅に言われて失念していた事を思い出し、晃司は更に焦りを濃くした。
「どうすんだよ、良いのか? このまま放って置いて」
「さあな。でも、何かあっても、大事が起こる前にあいつの背後霊がどうにかするだろ?」
“背後霊とは私達の事か?”
“だろうな。しかし慧獅、自慢ではないが、此方は手出しは出来ないのだぞ。それに、もし仮に出来たとしても、あの瑞姫をどうにか等、……不可能だ”
 慧獅と晃司の一体一体が言葉を挟み、その話に晃司は表情を曇らせ、慧獅は微笑んだ。
「瑞姫はそんなに馬鹿じゃないさ。自分の立場は弁えてる。それに、もし瑞姫が俺達の存在として不適格者としての道を選んだとしても、それはちゃんとあいつなりに後悔のない事をしたからだ。あいつにとってそれが一番良い事だと俺は思ってる」
「慧獅……」
「大丈夫だ。今回の事は、あいつなりのけじめの付け方だ。放って置けばいい」
 自信のある慧獅に、晃司は躊躇いながらも一応納得した。
 納得したが、多分慧獅が忘れている事をどうしても言わなければならないと、少々嫌味な顔を作りだしてから口にした。
「でもよ、瑞姫ってば滅茶苦茶あの男の事気に入ってただろう? 良い訳、二人っきりなんかにしちゃってさぁ?」
 ぴくっと慧獅の眉が跳ね上がるのを、晃司は小気味良い気持ちで眺めた。
「あいつの理想って、おっそろしいまでの夢見る少女だろ。白馬の王子様って、マジだもんなぁ。しかも相手は金髪碧眼の、俺から見てもいい男。盗られるとか心配ない訳ぇ?」
 晃司は大きな体を気味悪くうねうねさせながら、徐々に顔付きの険しくなる慧獅に笑いかける。
 普段から顔色を変えない慧獅が、唯一狼狽えるのが瑞姫の事を持ち出す時で、その時が一番晃司にとって楽しい一時でもあった。
 好きな子に対してつい意地悪をしてしまう子供を地でいく慧獅が、面白い反面じれったいのだ。
「どうするのかなぁ? 慧獅君はぁ?」
 なおも嫌味を続ける晃司を、一度睨み付けて慧獅は立ち上がり、指を鳴らして一瞬で服を着た。
「煩い。そんな事が有るわけ無いだろ。あいつの“バージン”は俺が貰うんだから」
「バ…“バージン”って、んなのもうとっくに捨ててるかもしんないだろ?」
 恥ずかしそうに声を小さくする晃司に、慧獅は不敵な笑みを見せる。
「大事に持ってるさ」
「どうして判るんだよ」
「判る。俺はお前と違って、商売女に筆降ろしからお世話になりっぱなしじゃないからな」
 お返しとばかりの慧獅の言葉に、言葉もなく晃司は狼狽え、言われた言葉が間違いじゃない事を自分で証明してしまった。
「おっ、お前っ、お前だって、相手は男ばかりだろうがっ!!」
「こなれ過ぎて緩くなった女より遙かにましだろ? それに、男だったら孕ます心配もないし、あいつ以外の女なんて俺には興味ないからな」
「それ聞いたら、瑞姫切れるぞ……」
「だろうな。しかし、無駄に溜め込むのも馬鹿だろ? あいつを無理矢理抱くなんて出来ないんだからな」
「そりゃそうだけど……。はぁ…何を言っても無駄か」
「そうだ」
 断定されて晃司は肩を落としながら溜息を吐いた。
 確かに長い年月、性欲を抑える込むのは、健全な精神と肉体を持つ男子には苦痛だ。いや、ほぼ不可能と言っても過言ではない。しかし、晃司に言わせて貰えば、慧獅の行動は歪んでいるとしか思えない。
「……俺、なんか疲れたから帰るわ。お邪魔様……」
 言いたい事は数限りなくあるが、慧獅には何を言っても無駄だと、心の中で愚痴をこぼしながら、晃司は現れた時と同じ様にフッと消えた。
 残された慧獅は晃司が消えたのを見計らって、小さな溜息を漏らす。
 それから暫くして、体の熱を我慢して自分を待っている少年を迎えに、静かに奥の部屋へと向かった。


episode.19 fin