茶房 クロッカス その3
そこには京子ちゃんの悲しい想いが滲んでいた。
同時に、俺の目も暖かいもので包まれ、読み返す時には文字が滲んで見えなくなっていた。
手紙を丁寧に封筒に戻して京子ちゃんに返すと、京子ちゃんの目をじっと見て、
「本当にいいんだね? 絶対に後悔しないんだね?」
と、念を押さずにはいられなかった。
「えぇ、もう決心したことだから……」
そう言うと、潤んだ瞳が固い決意を訴えていた。
俺はもう何も言わないことにした。
元々俺は京子ちゃんに何かを言える立場ではないのだから……。俺だって、今でも優子への想いを消せずにいるのだから……。
京子ちゃんが帰ったあと、俺は今月の出来事を振り返った。
十月もあと少しで終わるなあ。
それしても先月はやけに永かったように思ったけど、今月は、やけに悲しいことが多かった。
そして、その割りには短かったような気がする。
一体神様は何をしてるんだ? 仕事さぼってるんじゃないのか?!
あっ! そうか……。今月は神様出掛けていて留守なんだった。神無月だもんなあ。
とうとう今年のお月見もだんご食べなかったなぁ……。
いや、問題はそっちじゃない!
問題は一緒に美しい月を鑑賞できる女性(ひと)がいないってことの方だ!
神様、特に縁結びの神様、恵まれない俺に愛の女神を〜〜(祈り)
――神無月とは――
古くから我が国では十月を神無月(かんなづき)と言います。
これは十月に日本中の神様が、出雲の国(現在の島根県)に集まり会議を開き、他の国には神様が居なくなってしまうことからそう呼ばれてきました。
神様の集まる出雲の国では反対に十月は神在月(かみありづき)と呼ばれています。
この会議は旧暦の十月十一日から十七日までの間、出雲大社で開かれ、その後、佐太神社に移動し二十六日まで会議の続きを行います。
その期間に出雲大社と佐太神社では神在祭が行われます。
この神様の会議が行われるようになったのは、大国主神が日本の国土を開発した神様で、その時自分の息子や娘を各地に配置し、その地を管理させたことに由来します。
子供たちは年に一度出雲の国に戻り、父親である大国主神にその年の出来事を報告し、来年の予定を打ち合わせするようになったのです。
後に大国主神系以外の天照大神系の神様も出雲へ来るようになりました。
大国主神は天照大神に日本の支配権を譲ったとき、代わりに幽界の支配権を得たと言われています。
物質的な物事については天照大神とその子孫である天皇家が管理しますが、精神的な物事については大国主神とその子孫が管理します。
そこでこの会議では一般的に人の運命について話し合われます。
なかでも誰と誰を結婚させるかなどと言うことを、この会議では議題に上ります。
遠く離れた見知らぬ同士が知り合い結婚するようなケースは、この会議の結果からかもしれません。
そのため出雲大社は縁結びの神様としても信仰されています。
作品名:茶房 クロッカス その3 作家名:ゆうか♪