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茶房 クロッカス その3

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 そしてその夜、久しぶりに夢を見た。
 夢の中には親父とお袋が立っていた。それも相変わらず仲良く手をつないでいる。
《チクショウ! どうしていつもそんなに仲がいいんだよっ。俺なんかこんな年になっても、そんな風に手をつなぐ相手すらいないのに……》
 俺は少々八つ当たり気味に心の中でそう呟いた。すると、
「あはは…うふふ…」と、親父とお袋の笑い声が聞こえてきた。
《あれっ? もしかして、聞こえてる?》
 そう思っているとお袋が、
「悟郎、大丈夫ですよ。あなたにもちゃーんと運命の人が現れるから。だからそんなに拗ねるもんじゃありませんよ。うふふ……」と笑った。
「お袋、それって本当かい?」
 俺が勢い込んでそう尋ねると、
「悟郎、信じる者は救われるのじゃ!」と親父が、かつての親父らしく言った。
「ふぅーん、やっぱりそうきたか……」
「それより悟郎、今日はやけに常連の皆さんが店に集結して下さったと思わないか?」
「うん。確かに……」
「それはな、五年前、私たちが死んだ時、お前がショックから沈み込んで店をしばらく開けなかっただろ?」
「あ、あぁ……」
「今の時期になると、みんなあの時のことを何となく思い出して、気になってお前の様子を見に来てくれているんだぞっ」
「あっ、そうかぁ。そう言えば重さんが、五年前がどうとか言ってたなぁ……」
「うん。そうだろ?」
「お前、最近忘れてないか? 感謝の気持ちを」
《ドキッ!》
「い、いやそんなことはないさ!」
「ははは、そうかぁ? ま、それならいいんだがな……」
 どうも見透かされているらしい。
「それより運命の人って?」
 俺はそっちの方がよっぽど気になっていたのに、親父たちはそれには答えず、すーっと消えてしまった。
「お、おーい!親父ー!」
 俺は、自分のその声で目が覚めた。

《運命の人かぁ……、あっ、それより感謝だ。そうそう、感謝、感謝。うん、これを忘れちゃいけないなっ。親父たち、本当に俺のこと見てんだなぁ》
 妙に感心したのだが、眠気には勝てずに、俺は再び寝入ったのだった。