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茶房 クロッカス その3

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「おっはよーございまーす! マスター。……マスター?」
「う、ん? あっ、沙耶ちゃん。おはよー」
 突然沙耶ちゃんに呼び掛けられて、俺は回想の世界から引き戻された。
「どうしたんですか? ぼおーっとしちゃって。何か悩みですか?」
「いや、そうじゃなくて、……もうじき俺の両親の命日なんだよ」
「命日?」
「そうなんだよ。それで、ふと両親が亡くなった時のことを思い出しててね」
「マスターのご両親って、いつ亡くなられたんですか?」
「うん、来月で丸三年になるんだよ。早いもんだよなぁ」
「病気だったんですかぁ?」
「いや、交通事故に巻き込まれてね。普段から仲のよい両親だったけど、死ぬ時まで一緒に逝くとはねぇ……」
「えっ?! 一緒に? マスターって兄弟いないんですよね? …確か」
「あぁ……」
「じゃあ、いきなり一人ぼっちになっちゃったんですねぇ〜」
 沙耶ちゃんは俺の気持ちが分かるのか、目を潤ませているように見えた。
「あぁ、でも大丈夫さ! こうして元気でやってるんだから。さぁ〜仕事、仕事」
 これ以上両親のことを言われると、何だか涙が出てきそうな気がして、慌てて話を切り上げ仕事に取り掛かった。
 俺は涙もろい方だとは思うけど、朝から涙を見せたくはなかった。

 その日の午後のこと。
 それまでは毎日欠かさずに、夕方四時頃には店に来ていた水無月さんが、その日初めて顔を見せなかった。
 俺と沙耶ちゃんは二人で話した。
「水無月さん、今日は一体どうしちゃったんだろう?」
 二人共通の疑問に、色々考えた結果。
「――だが、たまには用があって来れないことだってあるよな」 
 ということで話しがまとまった。
 
 しかし、次の日も、その次の日も水無月さんは来なかった。