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茶房 クロッカス その3

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「マスター、この年にして、初めてパーティというものに参加させてもらいましたが、こんなに楽しいものだとは思いませんでしたよ。また、これをご縁に是非お茶に寄せてもらいますよ。ありがとう」
 そう言って、あかはなさんは帰って行った。
 コロさんと草愛さんも、
「ほんまに楽しかったですぅ。また寄せてもらいますわぁ」
 と言葉を残して、真っ赤な車に乗って帰って行った。
 光さんたちも、レッカ―さんたちも、みのさんやなおごんさんも、そして、みっこさんや姫ちゃんも、みんなそれぞれに挨拶をして、またの来店を約束して帰って行った。
 気が合ったのか、メモリーさんや良くんたち数人は、この後、おりゅうさんの店で二次会をするらしい。俺にも、後からでも来るようにと誘いの言葉を残して帰って行った。
 みんながそれぞれのプレゼントと、楽しい想い出を土産に抱いて店を出て行き、賑やかで楽しかったクリスマスも終わってしまった。

 みんなが帰った後の店は本当に静かで、今までの喧騒がまるで嘘のようだった。
 沢山のお客さんたちと過ごすクリスマスは本当に楽しかったけど、その後の静けさはいつもより一層の孤独を運んで来るようだ。
 俺は店で最後の片付けをしながら、もし俺が結婚していたらどんなクリスマスを過ごすんだろうなぁ……と、ふとそんなことを考えた。
 俺は愛する妻と、可愛い子供と、ささやかなご馳走とクリスマスケーキを食べて、散々迷った末に選んだプレゼントを買って、それを開けた時の二人の喜ぶ顔を見たら、同時にそれが俺の喜びに変わるんだろうなぁ……と、取り留めもなくそんなことを考えた。
 しかし、いくら考えてみても、現実には成り得ないことだった。
 俺は片付けが終わると、おりゅうさんの店には寄らずに、まっすぐ家に帰った。
 
 店での妄想のせいなのか、その夜俺は夢を見た。
 そこは俺のうちのダイニングだった。
 俺はいつものようにテーブルに着いてトーストを食べていて、ふと顔を上げると、目の前に優子の顔が笑っている。
《優子、なぜ君がここに……?》
 突然背後から赤ん坊の泣き声がして、振り返ると、隣の居間に置いたベビーベッドの中で可愛い赤ん坊が泣き声を上げていた。
《えっ? なんでここにベビーベッドが……?》
 優子は慌てて赤ん坊を抱き上げた。
 そして服をたくしあげると、その豊かな乳房を赤ん坊の口に含ませた。
 俺は優子に声を掛けた。
「優子、その子はもしかしたら俺の子なのかぃ?」
「うふふ、何を言ってるの? あなたの子に決まってるでしょ! おかしな人ねぇ」
「えーっ!? ホントに俺の子ー?」
「ワァオー、ヤッター!」
 突然目覚めた俺は、慌てて周囲を見回した。
「……?」
 そこにいるのは、どう頑張っても俺一人だった。
 どうやら自分の寝言にびっくりして起きたらしい。
「何だ夢か……。ま、そうだよな。この年で赤ん坊ができたって、成人式の頃には俺はおじいちゃんだもんなぁ。かえって子供が可哀想だよな」
 虚しい独り言を吐いて、よっこらしょと起き上がると、いつものように顔を洗い、食事を用意して、仏壇の父母へご飯と水とお茶を供えた。
「親父、お袋。もし本当に俺にも縁がある人がいるんなら、頼むから早くしてくれよ。でないと俺、このままじいさんになってしまうぜ」
 言っても無駄なことと思いながらも、その日だけはそう言わずにはいられなかった。