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てっしゅう
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深淵「最上の愛」 最終章 残されたもの

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翌日から、森岡は厳しい追及を始めた。小野田を緊急手配し、実行犯の男をタクシードライバーの証言に基づいて似顔絵を配布した。小野田のもくろみは外れて警察が捜査を強化したため動きが取れなくなってしまっていた。偶然出入りを目撃した市民からの情報で募集中の看板が掛かっている店舗兼住宅に森岡は踏み込もうとしていた。銃を手にして安全装置を解除して、引き金に指を掛けて中に入っていった。

「警察や!動いたらあかん」
小野田はテーブルに隠れて応戦した。
「先に発砲したな。小野田!正当防衛や、死んでもらうで」
正確に狙った森岡の銃は小野田の胸を突き破った。「うっ!」という声とともに床に倒れた。
「あと一人はどないしたんや!答えろ」
「知るか・・・」そう言うとゲボッという声とともに血を吐いて絶命した。
「これでいいんや・・・刑務所に入るなんて生ぬるい奴やお前は」
銃声で駆けつけた警官は森岡の指示で遺体を鑑識に回すように命令した。逃げた鉄砲玉の指名手配をされている男は不幸にも山中組に見つかることになり、小野田より悲惨な死に方をした。府警に出頭した桂川は今回の騒動を陳謝し、今後抗争にならないように努めると約束した。

家に帰ってきた森岡はいきさつを朋子に話した。
「そうだったの・・・良かったって言っていいのかしら。複雑ね。あなた、しっかりなさってね。不幸は帰らないけど、あなたには絵美さんや翔太さんの分までこの町の安全のために頑張ってほしいわ」
「うん、そうだな。ありがとう。刑事として誰にも負けないように精進するよ。あの世からきっと応援してくれていると思うから」


やはり暴力団に育った生い立ちはこういう死に方をする運命に決まっていたのだろうか。絵美の両親はいまさらに後悔をしていた。幼友達の翔太は頭もよく勇気もあって、絵美とは本当に相性の良い男と女に思えていた。真実を知ったときにやはり反対すべきだった、そう今思うと切ない思いで胸が一杯になる。

森岡と朋子と及川が絵美の葬儀に参列していた。まだ保育器に入れられている子供は女の子だった。喪主の父親は生まれ変わりだと思って「えみ」とひらがなで名前をつけたことを発表した。すすり泣く声が聞かれる葬儀会場で、お別れの言葉を森岡は述べた。

「絵美さん、安らかに眠ってください。あなたに教えていただいた警察官としての精神は今も誇りに思っています。市民が安心して暮らせる社会を作るためにこれからも精進しますので天国から応援していてください。本当にありがとうございました。さようなら、絵美さん・・・」

クラクションが鳴らされて、絵美の遺体を乗せた霊柩車は静かに発車した。

朋子はもう立っていられなかった。森岡に支えられながら、悲しみに耐えていた。

数ヶ月が過ぎて、残された「えみ」と対面した朋子は、早川の両親に「養女として育てさせていただけませんか」と申し出た。驚いた両親だったが自分たちの年齢や将来のことを考えたら「えみ」にはそうしたほうが幸せなのかも知れないと、考えた末に返事をした。
「朋子さん、えみはかけがえのない孫ですが、この子の将来を考えるとあなたにお預けしたほうが幸せなのかもしれません。どうかよろしくお願いします」
「はい、早川さん、我が子と同じように育てて将来絵美さんの娘に恥じないような素敵な女性にして見せます。ありがとうございます。夫もきっと喜びます」
「時々は私たちに顔を見せてくださいね」
「はい、もちろんです」

えみの養女引き受けは森岡が朋子に頼んだことだった。朋子も森岡の気持ちと自分の思いを考えて快く了承した。小さな乳飲み子が増えて大変だったが、自分の両親にも手伝ってもらって子育ては順調にこなせるようになっていた。


山中組はその後トラブルを起こさなかった。桂川は水島の供養と戸村の供養を一周忌にあわせて菩提寺にて執り行った。よちよち歩きを始めたえみを連れて森岡と朋子は早川の家に一周忌の法要に出かけた。両親は大きくなったえみを見て、「あの子の小さい時と良く似ているな」と目を細くしていた。

「お父さん、神戸も静かになりよりましたわ。このまま平和が続いてくれたら、絵美さんと翔太さんの死が無駄になりませんね」
「森岡くん、きみが小野田を撃ったと聞いたよ。初めからそうするつもりだったのだろう?」
「いや、私は卑しくも現職の刑事ですよ。初めからなんて、思っていませんよ。相手が発砲してきたから応戦したまでです」
「そうか、そういうことにしておこう。朋子さん、いつもありがとう。えみは可愛く育っているようだ」
「ええ、お父様、主人もえらい可愛がりようで、えみも懐いていますから、嬉しいです」
「そのようだね。さっきからずっと膝に抱きついているからな、ハハハ、おじいちゃんのところにもおいでよ、えみ」

そう声を掛けられてえみは振り向いたが、いやいやをした。まだ人見知りをする様子だった。

えみが大学を卒業して、警察官に採用されたとき森岡は丁度回りまわってきて大阪府警の本部長に就任していた。念願の警視正から警視監になっていた。母親の姿を父の森岡耕作から聞かされて自分も同じ道を進みたいと勉強をして上級ではなかったが公務員試験に合格して、兵庫県警に赴任した。東京の祖父母からお祝いの電話が掛かってきた。

「えみ、おめでとう。お母さんの果たせなかった夢をお前が叶えてくれよ。きっと天国から応援してるぞ」
「おじいちゃん、頑張ります。長生きしてね、時々会いに行くから」
「嬉しいよ。待ってるからね。おばあさんに代わるから・・・」
「えみ、おめでとう。お父さんを見習って立派な警察官になってね。応援しているから」
「おばあちゃん、ありがとう。父を手本に励みますから、長生きしてね」

親子二代、警察官として森岡耕作と森岡えみは仕事を全うした。天国の戸村翔太と絵美もきっと幸せを感じていることだろう。